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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
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弁当事件

学年末テストでは210人中23位。

思ったより落ちていなかった。

しかしアルバイトのせいで勉強時間が減り、授業の予習復習が十分にできていない。


稼いだお金で、窮屈になっていたカッターシャツやズボンを新調し、欲しかったランニングシューズも買うことができた。

小遣いを持てるということは本当にうれしい。


高1の学年末、初めて自分の進路や将来について真剣に考えた。

高2から文系、理系のコースに分けられる。


初めは理系国立コースのつもりだった。

医者は無理としてもエンジニアか研究者にでもなれたらいいと思っていた。


図書室にあるコンピュータで、授業料が不要の学校を調べた。

給料までもらえる防衛大や気象大、海上保安大などには心をひかれ、入試科目、倍率、過去問などを真剣に検討した。

どことも難易度は国立大難関校に匹敵するらしい。


俺には何の職業が合っているのだろう?

引越しの仕事では、チームの主任さんによくほめられた。

学生アルバイトの中では一番骨惜しみせず働いたと思う。


休憩時間、みんなスマホと向き合っている中で、配られた就業規則のパンフレットを読んでいた。物を運ぶときは、『落とさず・ぶつけず・休まず』で、重いものを運ぶ時は、足の太ももを使うのがコツらしい。

それを主任さんに聞くとていねいに教えてくれた。

昼食を一緒に食べた。


「この仕事、きついのによう頑張っとうなあ。何か買いたいものでもあるんか?」

「一応生活のためです。携帯を持ってないから欲しいし」

「そうか。家の方、苦しいのか。でもバイトもいいが、あまり深みにはまらんことだな」

義兄と同じようなことを言われた。


「うちの娘なんぞ携帯命で、わしに口もきかん。高校に入ったら、少しはましになると思ったが」

何気なく胸の名札を見た。

角谷泰三。まさかなあ。


高1の数学や生物の成績は悪くなかった。

それは、相当な時間をかけて教科書の解答例やポイントを丸暗記した成果であり、たいして勉強をしなくても点が取れた国語や社会と違って苦手意識がぬぐいきれない。


2年から数学や化学より世界史の時間が増える方がいい。

適性を考えれば文系か。

迷った末、文系の国公立コースを選んだ。


サッカー部の野路は理系コースに行った。

「俺、体育以外できる科目なんてねーよ」

そう言って、淳一と同じクラスになれなかったことをとても残念がった。


高校2年の担任は英語の吉見遥先生。

クラスメートは大喜びしていた。


同じクラスには、角谷と彼女にいつもくっついている橘香奈がいた。

目が合うたび、恥ずかしそうにうつむいてしまう。


昼食は、相変わらず残り物を詰め込んだ弁当だ。

高校では食堂が狭いので、利用できるのは2年生からと決められていた。


4月当初、物珍しくて何回か利用した。

しかし300円のカレーライスだけでは足りないし、500円の定食では、乏しい家計への影響が大きい。あきらめて、またうまくもない手作り弁当に戻った。


いつものように教室で本を読みながら弁当を食べていると、角谷と橘がやって来た。

「かなっぴ。早く言いなよ。もう、いつも私に言わせるんやから。あのね倉本君。これ、香奈が作ったお弁当。食べてもらいたいんやって」


可愛い弁当箱を机の上に置き、淳一の弁当を見た。

ごはんと野菜炒めが雑然と詰められている不細工な弁当だ。


見られたくなかった。

ふたを閉じた。


「何で、おれに弁当?」

「あの、倉本君がいっつも同じ物を一人で食べて可哀想やから、香奈が食べてもらいたいって。それで私が、あの・・」

「俺が可哀想だから、作ってきたって?」


淳一が、本気で怒っていることが分かったのか、香奈さんは弁当箱を引き寄せた。

「ごめんなさい。可哀想なんて私思ってないし、もうこんなことしない」


二人は、淳一の前から逃げるように離れた。

周りにいる同級生の「かわいそー」「ひどい」と言う声が聞こえてきた。


食べる気をなくし、弁当箱を持って教室を出た。

中庭のベンチに座った。


近づいてきた餌待ち顔の鳩を見て、俺もこんな顔していたのかと思った。

思わず残りの弁当の中身をぶちまけると、鳩は飛んでいった。


すぐに怒りは治まり、後悔の念が頭をもたげてきた。

弁当を見られたぐらいでかっとなってしまった。

黙ってもらっとけばよかった。


放課後、部室に向かう途中、野路に呼び止められた。

「お前、誰かを泣かせたって女子の間で噂になっているぞ。色男はつらいな。けどあいつらを敵に回したらこわいよ」

「何で俺なんか相手にするのかな。ほっといてくれたらいいのに」

「そりゃお前、俺と一緒で顔は悪くないやろ。おまけに勉強も運動もできるけど、みんなと一線画しているから、なんか気になるんや。話せば結構面白いんだけどな」

「お前みたいに理系に行けばよかった。女子の多いクラスは本当に嫌だ」


5月の連休前、水泳部員でプール掃除をした。

去年は部長の白井さんなど、どの先輩もしっかりしていた。


今の3年生は練習意欲もいまいちで、あまり好感が持てない。

プール掃除も初めはまじめにやっていたが、後半は遊び半分状態になっていた。


そんな中でも淳一は、デッキブラシで力を入れてプールの底をこすっていた。

緑の苔がまだ匂っており、ぬるぬるして気持ちが悪い。

今年入った新入部員も淳一をまね、並んでブラシをかけていた。


そこへホースを持った3年生の谷田先輩が、後ろから水をかけてきた。

「お前ら暑いやろ。冷やしたるわ。」


水は冷たく、1年生は悲鳴を上げて逃げまどう。

淳一は先輩が遊んでいるのにむかついていたが、とうとう我慢しきれなくなった。


デッキブラシを投げ捨て、谷田先輩の方に向かっていった。

彼はホースを投げ出した。


「なんやねん。お前やる気か。2年のくせに」

去年彼から『原人』と言われたことがある。


みんなが動きを止めた。

谷田先輩は、淳一を見上げながら後ずさりする。


「やめてよ。あんた達」

3年の仁志紀和子先輩が大声を上げた。


淳一は、谷田先輩の前で一度立ち止まり、無表情で先輩の顔を見た。

黙って通り過ぎてからシャツを脱ぎ、プールサイドに広げて乾かした。

ほっとした雰囲気がプール内に漂い、谷田先輩がまたホースを拾った。


「ぼけが、びびらせやがって」

先輩たちはげらげら笑っている。谷田先輩が、同学年の仲間に話しかけた。

「あいつブログにある通りやな、自分が一番偉いと思っていやがる。」


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