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香武庁  作者: かんから
最後に
29/29

問いかけ

 ”5月20日”、この日を改めて建国記念日と定めた。統一政権の政令第一号である。


 トップには旧軍事政権の官僚で行政局長だった北波きたなみ真輔まさすけ(彼は非軍人)。あくまで英語表記の”トップ”であり、このときはまだ日本語名が定まっていなかった。首相や内閣総理大臣だと、上に元首がいるということになる。元首を大統領とよぶならば、新庁府の望む上座を作らぬ徹底した民主制へ近づくが、香武かんむ尊歳たかとしという存在が無視されたこととなる。ささいな発言や認識の違いにより、やっとでおちついた戦争が再び始まりかねない。


 香武庁派を成り行きで巻き込んでいる仙名せんな政勝まさかつであったが、本音はまったく違っていた。青年組という実力がものをいう組織を経た彼にとっては、皇族などという永遠に守られ続ける権威に否定的。かといって”香武尊歳”を赤子の頃より保護してかわいがってきた。いわば自分の息子のような存在。尊歳もしっかりと”仙名イズム”を受け継いでいる。愛着ある彼を生かし続けるためにどうすればよいか……。


 仙名の知恵付けにより、香武尊歳は元首の地位を放棄すると国民に宣言した。これより、国家元首の呼び名は大統領に定まった。主権はすべて国民に属する。尊歳も不測の事態で処刑されることもない。ただし元首に関しては解決しても新庁府派から見れば、軍閥の動向はいまだもって複雑だ。旧軍事政権下の軍閥の半分ほどが、統一政権に参加する羽目になった。彼らの発言力をどうするのが妥当か、新庁府出身の面々は悩む。特に仙名は元首放棄宣言と引き換えに、新たに開かれる国会の議席に、軍人保有枠3割を設けるように要請。(例えば2017年現代においてミャンマーがこれに近い。各議員の議席のうち1/4を国軍司令官の指名枠としている。)




 当然の如く、両派(石川軍ら軍閥と新庁府出身者)の話し合いは長引いた。その中に梅津氏当人も参加している。


  …………



 忘れもしない、1943年7月8日。いやに蒸し暑い日。目の前のテーブルには軍人の仙名せんな政二せいじ(政勝弟)と小田原おだわら早歳はやとし。横にはアメリカ駐留軍のイストラス・バーニャ氏。新庁府派では梅津氏と同僚の由比ゆい吉郎きちろう氏の二人が座った。その部屋にいる全員がうんざりした顔で、仙名氏などは大声で叫び、”なんでこんなに暑いんだ”と話す。窓全開にしてみるものの、風は一切なし。とりあえず薄いカーテンを閉めて、遮光することにした。


 

 …………さて始めようかと思った瞬間、目の前が真っ白に。音という音がすべて耳へ入ろうとし、体はまるで宙を浮かんでいるかのようだ。……あちら側のその場所は、東京千代田城内の一室。こちら側の皇居内へ飛ばされてきた。



 





 以上が、梅津うめつひろし氏から聴き取った話の全貌だ。そのまま信じるとすると、梅津氏はあちら側の1943年から、こちら側の2017年に飛ばされてきたことになる。なのであちら側の世界が今後どのような足踏みをするかは不明だ。


 話を聞いて、個々人で思うところはあるだろうが……あえて問う。


 あなたはどちらの世界がお好きだろうか。

 


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