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香武庁  作者: かんから
軍事政権の時代
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香武皇族殺害事件

 軍事最高指揮官である十和田とわだ輔兄すけきは函館を奪還した名誉により、父の元雪もとゆきを上回ったと自負。さらに上を目指そうと、権力の強化へと向かう。


 手始めに1918年、織田おだ香武かんむ氏の元首制を廃止し、元首は軍事最高司令官だと変えた。各県の軍閥が集う国軍協議会を通さずに決定したため、輔兄に対する不信感が起き始めた。一部グループは最高指揮官の首をげ替えようと、右翼系団体の香親こうしん会と関係を結ぶ。かつてのクーデターと同じように政権転覆を企んだが、事前に情報が漏れてしまう。長野軍閥の矢沢やざわ真由まさよし、香親会の二羽石にわいし隆高りゅうこうじん十道じゅうどうらが逮捕された。これを諏訪事件と呼ぶ。


 他にも各地で大阪の指示に従わない動きが頻発。軍事政権のまとまりに欠けつつある。そこで十和田輔兄は信頼のおける部下を監察官として地方へ派遣することにした。そして地方勢力を大阪に取り込もうと考えた。


 こうして諸々の混乱が一通り落ち着いた。だが別のことで問題が発生する。ロシア革命により共産思想が国内に流入してきたのだ。そこで治安維持法など制定し、共産主義を取り締まり始める。これは忠実により広がりが大きかったと思われる。なぜならこちら側であれば大正時代にあたる時期だが、民党政治によっておおむね平和に暮らせている。あちら側であれば各地で軍閥が幅を利かせ、人権という者は抑圧されていつ。共産主義にすがりたいと思う者も大勢いたかもしれない。

 新庁府亡命政府でさえ共産派がいるくらいだから、決して侮れない。


 十和田輔兄はさらに1921年”青年組”を組織。軍部の有能で若い将校を上に登用し、治安維持を徹底する任務を負う。青年組大将に母方実家の内台ないだい今勇こんゆう。配下に仙名せんな政勝まさかつ夢倉ゆめくら弟輔ていすけ隆奥たかつ仁輔じんすけらの名前があり、面々に”輔”の字が多いのは十和田輔兄からもらったからで、さらに夢倉などは兄に対し弟として仕える意味合いで”弟輔”と名を変えたという。


 彼らはそれぞれ兵を与えられ、赤狩りのために働いた。他には新庁府派の民衆やスパイを取り締まったり、超法規的なことも含んだ。輔兄の意志のままに動く。 



 ついには輔兄は青年組を大坂城内の宮内部へ押し入らせた。宮内部には天皇の香武かんむ義月よしつきら織田香武氏の一族が暮らしている。彼らをすべて捕縛し、処刑せよという命令を受けていた。これで名実ともに輔兄は日本の王座に君臨する。



 ……1922年9月。香武皇族殺害事件により、織田香武一族総勢30名は無残に処刑された。罪があったわけではなく、時の権力に踊らされ続けた彼ら。いかなる思いだっただろうか。織田信長の子孫の哀しい最期……。





 かの異世界からきた住人の梅津うめつひろし氏は、当時10歳だったという。父と共に香港でこの知らせを受けた。先にロシア帝国の皇族も処刑されたという報も知っていたが、かの国の民衆はそんなに哀しまなかった。しかし日本国内外の民衆すべて、この事件を哀しんでいる。それはなぜであろうか。国民性といわれればそれまでだが、研究すべきいい観点だろう。


 そして、ただ一人生き残った者がいた。偶然にも赤子であったため、病院の産婦人科にいた。生まれたばかりなので名前すらなく、皇族名簿にも載っていない。青年組は見逃した。……正確に言うと、一人は気が付き、病院へ向かった。だが……赤子を殺すのは忍びなく、密かにかくまうことにした。彼の名は仙名政勝であり、赤子は処刑された父の遺言の元、”香武かんむ尊歳たかとし”と名付けられた。

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