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香武庁  作者: かんから
義景の政権下
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強権による弾圧

 民衆は真実を知らない。いまだ庁府は弱腰だと見えて、非難をする。ロシアから武器を輸入していたのだから、アメリカなど打ち払えるだろうと。淡路島の戦いは夏の熱気のせいで目の前がぼやけた。そのところを不意打ちを喰らったのが原因だ。大老の条良じょうら康朝やすともと対立する博多藩隠居の上西じょうせい宗家そうやは、康朝卿を追い込もうとハチャメチャに民衆をあおる。


 さらに宗家卿は主に瀬戸内航路の諸藩に噂を吹き込んだ。”将来的に瀬戸内を外国船が渡航してもいいと押し切られるだろう。国内の海運業者は仕事を取り上げられ、悲鳴を上げるに至るだろう。防衛の面からしても危ない。……そうなる前に康朝卿を追い落として、我ら主導の政治を打ち立てよう。”


 広島藩浅野家藩主の浅野あさの菊友きくともは娘を香武庁十二代の香武かんむ義景よしかげ次男の義菊よしきくに嫁がせた。このとき義菊は菊の字を、広島藩主より拝名したという。十三代目に義菊がなるよう、運動を開始。娘を長男の義武よしたけに嫁がせている康朝卿と対立を深めた。



 ……国内の意思が一つになるべき時に、権力闘争を明け暮れるなどもってのほか。強権を持って、国を治めなければ……、康朝卿は非常手段を実行に移す。


 手始めに大坂に商いのため支店を出していた博多の大商人を拘束。武士と癒着した罪により廃業と資産没収を命じた。これを皮切りに庁府の反対論説をはる書物の出版禁止命令、同時に著者の拘束。噂をむやみに煽った者を探し出し、獄につないだ。



 ……次第にやることなすことが大きくなったため、博多藩を中心として地方が反発。庁府内の役人らもささいな言葉が獄につながるとして、恐怖におちいった。最終的に民間では500人、要人では100人が捕えられて、20名が刑死した。江戸藩松平家庶流の松平まつだいら慶喜よしのぶ(=後の初代警察庁長官)や広島藩浅野家家老の師島しとう長道ながみち(=後の国会議長)らにも謹慎処分が下っている。


 ……この惨状に、博多藩隠居の上西宗家と藩主で息子の上西じょうせい宗順むねのぶが上京。康朝卿に対談を申し出た。さすがに御三家一門には制裁を下さないだろうと、出方を見るためだ。捕えなければそれに越したことはないし、もし何かしらの罰が下れば、香武庁開府以来の体制を揺るがすものとして大いに批判できる。”やつは御三家を条良家のみとし、権力を独占するつもりだ。あまよくば帝にならんとしている”と。



 康朝卿はこの親子の挑発的な顔を見て……切れてしまった。すぐさま監獄へ突き落とし、鞭で何百回も打ち込むように命じた。……康朝の顔はというと、ただにこやかにその様をみていたという。


 ……周りに詰める家臣らは、その康朝卿の異常さに震撼。きっとストレスがたまりすぎておかしくなってしまったに違いないと、…………引導を渡す機会を狙い始めた。



 康朝卿は大老で、庁府内では絶大な権力を持っている。……だが運よく、京都藩条良家の藩主ではない。兼務はきついため、父親の条良じょうら長康ながやすが藩主を務めている。……長康卿も、息子の異常に勘付いていた。康朝卿の弟や息子らも同じだった。


 家族の協力を得て、それは決行される。……1860年、珍しく雪降る冬の日。康朝卿は父親に京都へ呼び出された。……二条城の西門より入ろうと輿をおりた瞬間……縄や刺又さすまたを持った京都藩士たちが康朝卿を囲む。……彼は刀を抜いて何人かを切り捨てたが、多勢に無勢。こめかみを強く打たれ、気を失った。


 以後、愛宕あたご山の洞窟に作られた獄で一生を終える。あちら側の井伊直弼の最後は、このような顛末に終わる。……殺さなかったのは、肉親の愛情か。

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