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香武庁  作者: かんから
義秀の政権下
12/29

改革派の政治

 ……焼け野原となった大坂の惨状。新たな街づくりをなし、民が安心して暮らせる世の中にしなければならない。それが上に立つ者の使命だし、その立場に生まれてきたものの宿命だ……。



 香武庁十一代、香武かんむ義秀よしひでに幼いころからそば近く仕えている人物で、側用人であった者がいる。中川なかがわ重治しげはるといい、彼を中心に改革派と呼ばれるメンバーが集まった。火事の原因を旧来の体質だとし、商人と結んだ武士らを義秀帝の勅命をもとに政権中枢から排除。これまでとは違う政治を始めた。



 手始めに、大坂復興のための材木を国内産に限るとした。目的はロシア産の安価な材木を締め出し、金銀の海外流出を防ぐ。国内業者に金を落とすことにより、経済を活性化させるため。街づくりのため、諸藩に対し10%の石高を上納せよと命じた。その代わり参勤交代の頻度を少なくする。


 重要品目(=コメ・味噌・塩・豆・油)については上限額を設定。復興時の一定期間に限られたが、民衆の暮らしを大いに助けようとする。武士と商人の癒着を断つため、身分間の婚姻制限を復活。株仲間の解散を命じ、自由競争での価格低下をもくろんだ。


 他には武士の乱れた気風をただすため、綱紀粛正を実行。質素倹約をもっとうとし、義秀帝自らもこれにならった。



 当初は、これらは順調だった。庁内や諸藩から批判はあったが、民衆の支持により薄氷のもと成り立った。……だが改革を始めた翌年も凶作だった。結果として重要品目の公定価格は無視され、闇売買が横行。旧来の武士らの巻き返しがあり、互いに罪を着せて役から引きずりおろしたりして、権力闘争が激化。


 その渦中、中川らはあらたな政策を実施。武器の輸入を停止しようとした。イギリスの起こしたフェートン号事件以来、国を揺るがした事案は起きていない。食えないものを買うよりも、その金を国内にまわしたほうがましだと。なによりも金銀流出の最大要因。これにより財政も豊かになるだろうと。


 これに対し、貿易相手国のロシアは反発。わざと長崎と函館の二港を介さず、地方の藩と密貿易を始めた。国を復活させたオランダもこれに倣ったため、香武庁としての貿易収益が激減。外国船の取締経費もかさむし、加えて外国に無視されたため大坂の権威が低下。大坂復興の材木を地方商人が請け負ったのも加わって、中央より地方の力は強まった。のちの雄藩形成につながる。


 さらには隣国の清でアヘン戦争が起こった。(忠実だと1840-1842で、天保年間。話を聞く限りだと、ほぼ同じタイミングだと思われる。)武器輸入停止は最大の判断ミスだとして改革派は猛批判を受ける。中川重治は辞職し、改革派の面々は弊職に追い込まれた。



 ……ただし、復権した武士たちも悟っていた。これまでの政治では、国がだめになってしまうと。特に清国はイギリスにやられてしまった。日本にとっても脅威だし、武器輸入もさらに推し進めなければならない。だがそれを支えるだけの財政基盤はない。商品作物の開発や農村復興などは行っているが、上り幅に限りはある。


 諸国の技術やシステムを学び、将来的に武器の自国製造や制度の導入を目的として、”遣欧使節団”を派遣。ロシアやオランダなどの友好国に正式な使者を派遣すると同時に、留学生を配置し技術を学ばせる。これは香武庁の歴史の中でも異例のことで、海外からくる船を受け入れてはいたが、日本人が外国の土を踏むことは香武庁二代目の香武かんむ忠康ただやすの治世以来だ。約200年の歳月がたつ。

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