双子
黒いジャージにスニーカー。私は雄輔に借りた格好で歩く。マスクをつけて、具合悪そうに。ここは廃墟の裏に建つ総合病院。とある人を探していた。見ればすぐに分かるとゆずは言っていた。実際、すぐ見つかった。
ドン……
「あ、すみません」
わざと転け、ある男の人にぶつかった。
「こちらこそ、すみません」
身長は平均より低め。小さい顔にやや大きめのつり目。彼は、どこか少女の様だった。
「手、離してもらってもいいですか?」
彼に言われて、ずっと手を握っていた事に気づいた。
「す、すみませんでした!」
顔が熱くなってくる。
「じゃ、失礼します」
「待って!」
通り過ぎようとする彼を引きとめた。
「あ、あの……」
冷や汗が出る。ゆずに言われた事が、頭から抜けていった。
「ん? あぁ、君だったのか。気づかなくてごめん。」
「え?」
「ゆずから言われてるよ。早く案内してくれる?」
安心した。
「はい。」
病院を出て、獣道を数分2人で歩いた。お互い無言で気まづい雰囲気が流れていた。
「由佳!」
声の方を見ると、雄輔、巧と奏がいた。
「ゆずから頼まれたんだ。人数多い方が、安全だろうってさ。」
雄輔が言った。
「ありがと。」
「いえいえ。さ、急ごうぜ。」
「そうだね。」
私達は早足で、廃墟へと向かう。
「巧、俺達……」
「分かってる。絶対あっちを向くなよ。目があったらお終いだ。」
3人の後ろを歩いていた双子は、気づいていた。何者かにつけられている事に。
「うわっ」
奏が足を滑らせた。
「大丈夫?」
由佳の声が聞こえる。
「足捻ったみたいだ。俺等ゆっくり行くから、先に行っててくれ。」
奏は足をおさえていった。
「分かったー!」
由佳達は前を向き歩き出した。
「掴まれよ。」
兄、巧の肩に掴まり歩いた。……その時だった。
「!?」
奏が横へ倒れる。いや、倒されたのだ。倒した相手の手にはナイフが握られていた。
「やめろ!」
巧が体当たりし、ナイフを蹴る。相手は、巧の首目掛けて両手をのばした。
「兄さん!」
奏が叫ぶ。
「奏、先に行け…皆に伝えるんだ…」
巧の声は掠れていた。
「……」
兄を助けなければ。そう思うが、恐怖で身体が動かない。立ち尽くす奏に、巧が叫んだ。
「行け!!」
「ご、ごめんなさい!」
目から涙がこぼれた。兄はもう助からない。巧の腕力が女子以下だという事を奏は知っていた。相手がどちらであれ、力が足りない。奏は、何も出来ない自分を悔やんだ。
「いいんだよ……」
意識が薄れていく。最期に、最愛の弟を守る事が出来、巧は満足だった。