しんどい日々を、鏡を壊して
暗闇の中に、ぱぁと一段と明るく明るく何かが灯ったような気がした。僕はその明かりに手を届かせなくてはいけないという気がした。初恋だった。
それからというもの、僕は彼女に近づく方法を模索していた。
しかし彼女は僕個人の輝きや、すでに移項されて負をおびながらも輝いていたそれらに丁寧にペケをつけて回っていった。
全てにペケがつけられたその日、僕は蚊をパチンと殺した。
すでに血を吸っていたらしく、僕の手は赤く染まった。赤と緑。緑は洋なしの色だ。
赤は……そう、腹に出刃包丁を刺された僕の色だ。
僕は夢想し、恍惚とした。本来は彼女に刺さるはずだったそれが僕の腹に突き刺さる光景を。
彼女の言葉と涙、そしてあのふんわりと香る洋なしの匂いを浴びながら、僕はそっと目を閉じる。なんてロマンチックなんだ。
背景は幸せの道。
幸せの道で僕は彼女に出会う。だから僕はそこを幸せの道と呼ぶ。
そして幸せの道を通る者全てを訝しがって、彼女の家に入っていきやしないか、煮えたぎりそうな血液を循環させながらじっと見るのだ。
決まった日々の行動は僕という存在を形作っていく。
白かったスニーカーが、何度も何度も履かれて汚れて黒ずんで、もう白には戻れない。
塗りつぶせるのは赤。甘い赤色。
夢想を現実に変えるのは容易なことだ。鏡を使えば良い。
僕自身を映す鏡。そして鏡写しの僕から救うのだ。僕が。
鏡を壊して。
彼女が最後に僕に向けたのは、凶悪な獣を見るような目つきだった。
ブラッドレッドが僕を染める。