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ワンライ投稿作品

銀河の果てで、ありふれたサイクル

作者: yokosa

第112回フリーワンライ

お題:

バカだねと〇〇(〇〇の中に入るのは感情表現)

孤独の太陽

百年先も

伸ばした手、掴めなかった指先

ゆるりとたゆたう君の温もり

 コツ、コツ、コツ――

 ぼくから離れていく足音を聞きながら、極力その人工的な音を意識しないように努めた。

 その時ぼくは、我が〈クレイドル〉号が『オリオン腕』を離れていく様子を、右“腕”のモニターで眺めていた。

『オリオン腕』はぼくの故郷、太陽系を擁する銀河の『渦状腕』だ。渦状腕と言っても、それは本当にぼくの右腕のような形というわけではない。銀河系の“へそ”を中心とした無数の渦巻きの一つを『腕』と呼んでいるのだ。

 今、その『腕』の末端を飛び越えた。

〈クレイドル〉は両端に推進器を備えた棒状の宇宙船で、その中程には車輪のようなリング状のユニットをくっつけている。車輪からはさらに無数の触手のようなものが後方に流れていて、この触手で太陽光やイオンをキャッチし、推進エネルギーに変換している。

 リング・ユニットはまた居住区も兼ねていて――今まさにぼくはそこにいる――棒状の本体から伸びるスポークは行き来するためのエレベーターであり、エネルギー供給チューブでもある。

 平面モニターに簡略化された〈クレイドル〉はあたかも人の手のカリカチュアのようで、『オリオン腕』から離れていく様子は、伸ばされた手を離して別れを告げる指先のようにも思えた。

 ――随分詩的で感傷的な感想ではないか、我ながら。

 理由はわかっている。離れていった足音のせいだ。

 人類が地球から巣立って何世紀にもなるが、太陽系に散った我々は、それでも仲違いをけっしてやめようとはしなかった。ぼくにとっての母星に当たる星でもそれは同じで、嫌気の差したぼくたち夫婦は、外宇宙航行船を手に入れて旅立った。

 争いのない世界を求めて、二人だけで外宇宙へ発ったのだ。

 ――それがこのざまだ。

 たった二人でも、すれ違いは起こるのだと思い知らされた。いや、たった二人という環境だからかも知れない。

 百億人の中にいれば、ぼくらは一心同体で同じ思考をするだろう。一万人でも、千人でも、百人でも、十人でもそうだ。

 しかし、二人なら違う。

 たった二人という環境は、「ぼく」と「彼女」という二つの別固体を否が応でも思い知らせる。

 外宇宙の新天地を目指す旅が、たかだか五万光年で潰えようとしている。

 これは人類という種が負った宿命なのかも知れない。こんな、何十世紀も前のどこかの哲学者辺りが唱えたに違いないことを、今更ながら実感する。

 天才ではないぼくは数十世紀と五万光年をかけてようやく真理にたどり着いたわけだ。

 リング・ユニットは回転させて遠心力で重力を発生させることも出来るが、今は切ってあった。

 重さも対流(居住区だから流石に換気のため多少あるが)もない宇宙では、物体は浮いてその場で留まる。地上で意識することはないが、空気もまた物体だから、宇宙では不動だ。

 ぼくはそっと身を投げ出した。先ほどまで彼女がいた空間だ。そこにはまだ、彼女のいた痕跡があった。

 彼女の匂い。彼女の体温。ゆっくりと彼女の温もりの中でたゆたう。

 ぼくはまた、彼女を求めていた。


 しばらくすると、

 ……コツ、コツ、コツ――

 人工的な足音が聞こえてきた。

 ぼくは、はっとして顔を上げた。

 そうなのだ。リング状の居住区は外周の壁を床にしている。ぼくから最も離れて遠ざかろうとすれば、一周一キロメートル程の内郭をぐるり戻ってくることになるのだ。

 見ると、向こうもそれに気付いたらしい彼女が、ばつの悪そうな顔で近付いてくる。

 そうだ。これも人間だ。争い合い、離れることを繰り返すのもヒトなら、出会って、再び合一しようとするのもまたヒトなのだ。

 ぼくらは違うからこそ離れ、そして引かれ合う。

 ぼくらが二人とも同じように、一定間隔を開けて同じ方向に一定の速度で進めば、ぼくらは永久にこの揺り籠の船で出会うことはない。

 でもぼくらは違う固体だ。

 ぼくはここにいたから、そして彼女は歩き続けたから、また出会った。背中を向けて歩き出しても、やはりどこかの地点で出会う。

 出会って、別れて、そしてまた出会う。

 ぼくらはようやく、五百万年と数十世紀と五万光年の果てに、そうしたヒトのサイクルを手に入れた。

「バカだね」

 とお互い笑い合いながら、ぼくらは抱きしめ合った。


〈クレイドル〉号は宇宙のどこにでもある恒星、名もなき孤独な太陽の光を受けて、外宇宙を目指し続ける。

 ぼくらは冷凍睡眠を繰り返しながら、百年先までもこのサイクルを続けるだろう。

 今はまだ二人しか住人はいないが、居住区の部屋はたっぷりある。

 百年後には、もっと賑やかになっていることだろう……



『銀河の果てで、ありふれたサイクル』了

 ………………おや? なんだか珍しくいい話っぽくまとまったっぽいぞ?

 ワンライはサボってたわけじゃなくてですね、まあ結果的にやってないからサボってたわけですが、別サイトの方はちょこちょこ書いてましてね。まあそっちも仕上がってないんですが。

 あれ。じゃあ結果だけ見れば何もやってないってことじゃん。すいません。

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