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どうしてこうなった?

 「私が人間界へ……ですか?」

 兵営本部の作戦指令室で命じられたその任務に俺は愕然とした。

 あまりにも唐突過ぎて何か悪い夢を見ているのではないかと疑いたくもなってくる。もちろん拒否権はない。早い話が死んで来いってやつだ。

 「作戦領域は日本と呼ばれる小さな島国(エリア)だ。現在我々が侵攻できる天界領土にしては不自然なぐらい防衛力の薄い要衝。……おそらくだが何かある。貴様にはその理由を突き止めてもらう。無論、潜入行動でな」

 厳かな雰囲気を醸す眼鏡を掛けた初老の男性――。

 ザガン少将は俺にそう告げるなり手元に置かれた資料に目を移した。

「潜入行動……」

「なにか問題でも?」

「いえ、決してそのようなことは……」

 肌を突き刺すようにヒシヒシと感じるのは桁違いに強い魔力。

 もし戦うことになろうものなら一秒で原型を留めないぐらい無残に殺される自信がある。それと副官か参謀かは知らないが、ザガン少将の左右に控えるハゲとデブの二人の高級将校のおっさん達からもそれと同様のものを感じ取る事ができ、これは俗にいう圧迫面接に通じるものがあった。

 (どうして俺がこんな目に……)

 なにも不幸に見舞われるのが今回が初めてってわけじゃない。

 どちらかと言えば慣れっこなはずだ。

 しかし、今回の任務。何で俺が選ばれたのかがわからない。

 こうゆうのはエリート様の仕事であって俺のような雑兵の仕事ではないはずだ。

 (もしかして“あのこと”が影響してるなんて事はないよな……?)

 でもあれから二百年も経過してるんだし、流石に時効だろう。

 とりあえず遺書に何を書こうかと少し悩んだが、はっきり言ってそんなことは別にどうだっていいという結論が俺の中ですぐに出た。

 そんなことよりも俺にとって重要なのは女性経験なしで死ぬ事への絶望だ。

 なぜなら貧富の差が激しい魔界において、公務員というものは非常にモテる。

 地位と実力がある美男として有名なナベリウス中将は数百の嫁を持ち、数千の妾を抱えているらしいが、なにも俺はそうなりたいと思うほど愚かではない。

 一人でいいから女性と清く正しい交際を死ぬまでに一度だけ経験したいのだ。

 その為に死ぬほど勉強して倍率十万と言われる筆記試験の壁を三位で突破し、上位者特典をフル活用して死活問題だった実技試験をパスし、晴れて念願の正規軍入りしたわけだが、二年で事実上の死刑判決を受けるなんて俺の人生は一体何だったのかと嘆きたくもなる。


 「……――聞いてるのかね?」


 苛立つおっさんの耳障りな声が聞こえたことでハッと我に返った。

 「ったく……こんなやつで本当に大丈夫なのか?」

 おそらくだが俺は直立不動で白目を剥いていたに違いない。

 そんな俺を責め立てるように二人のおっさんが睨み付けてくる中でザガン少将だけは表情を崩すことなく無表情に書類を眺めていた。

 「必要なものはすべてこちらで用意する。詳細は書面化しておくので後で確認すること。以上解散」

 軍人気質なのか、感情なく淡々とそう告げたザガン少将は俺に敬礼する。

 続いておっさん二人も敬礼してきたが、ザガン少将がいなければこの二人は絶対に敬礼なんてしなかっただろうなと思いながら、俺は敬礼を返し背筋が吊りそうになるぐらい伸ばして作戦司令室から退室した。

 「外出許可証なんて……そう易々とくれねぇーよなあ……」

 この際玉砕覚悟で町に出てナンパでもしようかと思ったが、自分でも無理だという結論に至るまでにあまりに時間は掛からなかった。

 (あー……くそ、なんもやる気が起きないし今日はもう寝よう……)

 もしかしたら他に何かできる事があったかもしれないが、俺は現実を逃避するようにベッドに顔を埋めて残された貴重な時間を貪った。

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