うちのお嬢様はエキセントリックと言われている
うちのお嬢様はエキセントリックと言われている。
あれは私が10歳、優華お嬢様が8歳の時である。
熱を出して寝込んでいたお嬢様が、唐突に、
「転生キタコレーーーー!!!!!」
と叫びだしたのある。
そして当時まだ5歳だった妹君を見て、
「悪役令嬢キタコレーーー!!」
と目を輝かし突進して行ったのである。
お可哀想に、妹君の玲香様は泣き出してしまわれた。
お嬢様は玲香様が侍女長に連れられ避難した後も意味不明な言葉を発し続け、
とうとうその矛先がその場に居合わせた私にも来た。
「腹黒眼鏡執事キタコレーーー!!」
と、目を輝かせながら突進してきたのである。
「攻略対象も近くにいるなんて…しかも眼鏡と腹黒な超・テンプレ執事!!
テンプレだと分かっていても、そこにシビれるあこがれるぅ!!」と
叫びながら何故か体をクネクネしていた。
そんな優華お嬢様に、当時10歳だった私がかけられる言葉は一つしかなかった。
「僕は眼鏡をかけてないのですが。」
ちなみに執事も見習いである。
腹黒であることは否定しない。
さて。
錯乱したかに見えたお嬢様に、唐突に突進してこられ、
執事たるもの常に冷静であれと教育されていたものの、
まだ10歳だった私が、なぜあんなに落ち着いていたかというと、
お嬢様の言っていたことに心当りがあったからである。
そう、何を隠そう私も転生者、というやつだったのである。
確かにここが乙女ゲームの世界だと知った時は人知れず取り乱しもしたが、
ただしそれを知ったのはもう3年も前のことだったし、
ゲーム自体も前世の妻がのめり込んでいたのをチラ見した程度なので、特に実感もなかった。
何より、3年という日々は現実と折り合いをつけるに充分な時間である。
お嬢様が妹君を悪役令嬢に育てあげようと奔走されていた時に
「お嬢様、あまりやり過ぎると、没落フラグが立ちますよ」
と言った時の、呆然とした顔は思い出しても笑えるものがある。
冷静であれ、の教育がなかったら腹を抱えて床を転げまわっていた自信がある。
そんなことがあってかそれ以来、優華お嬢様の専属となった。
優華お嬢様も周りの目を気にしてかほんの少しだけ自重なさったようで、
詳しいゲームの話をするのは二人きりの時だけになった。(度々暴走はしていたが。)
とは言え私はさほど覚えておらず、聞き役に徹していたが。
「なんかさー2回も転生なんてしちゃうと、さすがに精神年齢がやばすぎて、数えるのやめちゃったのよね。
どっちもそんな長生きできなかったけど…」
お嬢様はおそらく気付いていないだろうが、その1回目の人生で私達は夫婦だった。
なぜお嬢様が気付いていないかというと、やはり3回目の人生ともなると1回目の人生の記憶は薄れるからだろう。
小学校の頃の記憶が曖昧なのと同じである。
それに、お嬢様が覚えていても覚えていなくても何の問題もない。
私はどんな些細な事でも覚えているし、さらに現世のお嬢様のことも同じようにそれ以上に愛しく想っているからだ。
前世でどうだったかはともかく、今は使用人とその主である。
そこには身分差というものが存在しているが、
幸いなことにお嬢様は度々暴走しエキセントリックだと言われていたので
お嬢様の手綱を握れるのは私しかいないと旦那様と奥様には涙ながらに頼まれていた。
お嬢様にとって大叔父であられるアキラ様には何故か冷たい目で見られたが、
三日三晩じっくり語り合い、今は身分と歳の差を超えたよき友人になれたと思っている。
さて、そんな風に根回し・・こほん、環境を整えている間(ちなみにこの頃には眼鏡をかけていた)、
お嬢様は妹君の玲香様を明後日な方向に教育されていた。
しかしお嬢様は何だかんだで妹君を大事にしておられるし、
何より妹君の玲香様は聡明な方なので、おかしなことにはならないだろうと放置しておいた。
(忙しくて面倒になったわけではない)
やはり玲香様は見事に没落フラグを叩き折り、
今ではヒロインと婚約者に囲まれて安寧な日々を送っておられる。
それを見たお嬢様が「逆ハーの座は頂きね…じゅる」と仰られ、
将来有望なイケメンたちを次々と籠絡していった。
はぁ…全く。少しお仕置きが必要なようだ。
「うぅ…だってせっかくだから逆ハーやってみたかったんだもん・・・」
と往生際が悪かったので、一晩じっくり言葉と体で言い聞かせたところ、
翌昼に目覚めた時には「ごめんなさいもうしません」と土下座していたので、
その日はとびきり甘やかして差し上げた。
ちなみにその後「結局同じ目にあうんじゃない!」と枕を投げられた。
うちのお嬢様はエキセントリックと言われているが、
私にしてみればちょっとオタクをこじらせた、おバカで最愛のお嬢様である。
蛇足な補足。
・私
名前は得には考えてない。乙女ゲームに転生した腹黒眼鏡執事。
原作では攻略対象の1人。なのでハイスペック。腹黒眼鏡執事
実際は転生者で優華の1回目の人生の夫。現在は腹黒眼鏡執事。
前世も今世も優華を溺愛してる。
ゲームについてもあんまり覚えてないし、優華が目の前にいるならなんでもいい。
・お嬢様
藍宮 優華。いわずもがな転生者。
8つの時に2度目の転生をした元オタク寄り女子。
大好きな乙女ゲームの世界に転生したことによりテンション上がって暴走する。執事が元夫だと気付かないまま、また恋に落ちる。
根回しに忙しくて相手をしてくれないため、趣味も兼ねて逆ハー目指すが撃沈。
でもちょっと嬉しい。
・妹君
藍宮 玲香。前作の主人公。乙女ゲームの悪役令嬢。
優華に明後日な教育を施され真っ当な人生を送る。
執事の腹黒さには気付いているがお姉さまが幸せそうだからいいや。
・アキラ大伯父様。
前々作の主人公。元「ねーちゃん」である優華が腹黒眼鏡執事に取られそうで拗ねていた。三日三晩、延々と優華について語り尽くして友情が芽生えた。
シスコン。