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手伝いをすると言って色々やってみたが、手間を増やす形となってしまった。
お母さんごめんなさい。
私はアオイちゃんの記憶を持っているが、その記憶通りに体を動かすことが出来なかった。
なので、全くのド素人が料理の手伝いなど出来るわけもなく。
焦がしたり、お皿を落としたりと散々だった。
苦笑いを浮かべるお母さんに、私はしょんぼりとしてしまった。
でも、野菜の盛り付けは何とか出来た。
1つずつ覚えていこうと思うのだ。
料理はナポリタンとサラダの盛り付け。
アオイちゃんの大好物だ。
ナポリタンの具は、玉ねぎとソーセージのみとシンプルな作りなのにとっても美味しかった。
流動食が主食だっただけに、モッチモチのパスタに飴色に炒めた玉ねぎの甘さが絡まって何倍でも食べられそうな感覚に陥ってしまった。
そして、肉汁の詰まったソーセージ。
一口サイズに切ってあり、噛むとパリっと口の中で弾けて、口いっぱいに豚肉の旨味が広がるのだ。
食事がこんなに幸せなのは十年ぶりだろうか。
小さい時すぎで覚えがなかった。
私が笑顔で食べていると、二人は満面の笑みでビデオで撮っているのだ。
ちょっと恥ずかしかったけど、二人が幸せそうな顔をしていたので私は何も言わなかった。
笑顔にできるのだらどれだけ撮られても大丈夫。
レントゲンだっていっぱい撮ったりもしたのだから、あまり変わらないかなと思うのだ。
食事が終わった後は、私はアオイちゃんの部屋へと向う。
今日から私の部屋だ。
ドキドキしながらドアを開ける。
中は、エアレースの写真でいっぱいだった。
机の上には、ポポちゃん一号の設計図とデバイスの設定、OSの改変など様々な専門言語の書かれた紙が散らばっているのだ。
「本当に好きだったんですね……」
ついつい、言葉が出てしまった。
そして、目から涙がこぼれ落ちる。
私はその空間を懐かしむように、ベッドへと体を預ける形で倒れこむ。
寝っ転がったまま天井を見上げる。
天井には、大きく引き伸ばされた一枚の写真が貼られていた。
大空の写真だ。
夏の風景だろうか、入道雲のようなものが見えるのだ。
アオイちゃんは身体が弱く、V・Dの燃料と言われる魔力を持っていなかった。
火、水、風、雷の属性魔力がある。
一つ一つに特性がある。
火は、瞬間加速に特化している。
水は、機体の安定性に特化している。
風は、俊敏な機体操作に特化している。
雷は、総合で均一なのだ。
この魔力を一つでも持ってないとV・Dは動かすことが出来ない。
魔力を持たずに生まれてくる子供はいる。
数百万人に一人といった確率だ。
アオイちゃんはその一人だった。
魔力を持たない者が動かすことが出来る結晶があるが、それは体に負担をかける代物だ。
普通の人ならば死に至ることはない。
しかし、命を燃やし潜在的に能力が上がる為、世界大会の決勝戦などの時に一度だけ使用を許可されている。
国の威信を賭けた戦いだ。
選ばれた選手も死に物狂いで練習してきたのだ。
負けるわけにはいかない。
だから、一レースのみ使用を許可されている。
それを今回アオイちゃんは使ったのだ。
夢を叶えるためにだ。
非公式で世界新記録を更新した。
器のこの体に戻らなかったのは、戻っても飛ぶことは出来ないからだろう。
転生してもう一度挑もうと思ったのかもしれない。
私は、どんな気持ちでその決断をしたかわからない。
でも、考えるだけで悲しくなってくる。
アオイちゃんには耐えられなかったのだと思う。
この部屋を見たら分かる。
レースにどれだけ情熱を注いでいたか。
知識もそうだ。
私の記憶にV・Dの知識がたくさんある。
専門書や自身でオリジナルパーツも作っていた。
それが、ポポちゃん一号だ。
願いの詰まった最高傑作だったのだと思う。
「私は、どのようにしたら役に立てるのでしょうか……」
アオイちゃんの記憶に答えを求めるかのように深く眠りにつくのであった。
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朝日が体に降り注ぐ。
日差しは心地よく、睡眠を促進する。
重い瞼を開けることも出来ずに、私はあと五分と思うのであった。
「アオイ、起きなさあああい」
「は、はい!」
聞き覚えのある声に、私はびっくりして目を開けると、私の上に馬乗りになっているカルアがいた。
ちょっと意地悪なお目々をこちらに向けて微笑むのだ。
「学校遅刻するよ。はーやーくーおーきーろー!」
「お、起きますから、カルアちゃんゆさゆさしないでぇ」
両肩を掴み私を揺さぶる。
脳がぐるぐる周り気分が悪くなるのであった。
これはいつもの日課みたいなもの。
アオイちゃんは、いつも時間ギリギリまで眠っている。
そして、毎日カルアが起こしに来てくれるのだ。
私はV・Dに乗れないので、学校までカルアが乗せてくれるのだ。
ちょっと申し訳ない気がする。
「あ、アオイが一回で起きるとか珍しい……」
「も、もう無理です……気持ち悪いです……」
「え? ちょ、ちょっと!? だ、大丈夫アオイ?」
「だ、だいじょばないですぅ……」
目を回す私に、カルアはオロオロするのだ。
いつもの調子でやったのだろうが、私は本日初めてこの起こし方をされぐったりとしてしまった。
お水を持ってきてもらい、それを飲んだら少しは良くなった。
危なく意識まで持っていかれるところだった。
私は、制服に着替えてる。
紺色のブレザーにスカート。
スカートは赤と紺と青のチェック柄だ。
下に着たシャツにリボンを結ぼうとするが、なかなか付けることが出来ずちょっと涙目になったのは内緒。
ニーソックスを履いて、鏡の前に立つ。
「こ、これでおかしくないでしょうか……」
正面を向いて次に横を向いて見る。
スタイルがよく、鏡に写る自身を見て可愛いと思ってしまった。
動く度にスカートがふわりと揺れるのだ。
それを何度か繰り返してみる。
スカートを履くのも初めてで、女の子女の子していて可愛いと思ってしまう。
「あ、アオイ、何してるの?」
「か、カルアちゃん!!」
見られてしまった。
恥ずかしい。
そして、待たせてしまって申し訳ないと思う。
頬を赤らめ私はその場でもじもじとしてしまう。
「アオイ、可愛いよおおおお。私のお嫁さんになってぇえええ」
「え、ええええええ!?」
いきなり抱きつかれ、告白されてしまいました。
カルアは、私の胸に顔を埋め懇願するのである。
このようなカルアは記憶に無い。
どうしたのだろうと私は思ってしまうのであった。
そして、私は初めての学校登校は遅刻という形で始まるのであった。