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真っ暗な水の底に沈む感覚から、暖かな光に満ちたものが押し寄せてくる。
私は何が起きてるのかわからず、目をぱちくりさせていた。
眩い光を放つ者が私の目の前にいるのだ。
「え、えっと、どちら様ですかね?」
「私は神様です。あなたにちょっと用事があって来ました」
「そ、そんなに簡単に来られるんですか?」
ちょっと軽い感じのする神様に、私はどう対応して良いか分からなくなるのだ。
吸い込まれる程綺麗で、この世の者と思えないというのは分かった。
人であったら、拝まなくてはならないレベルで綺麗なのだ。
「それじゃあ要件を言いますね」
「は、はい」
「あなたが死んだ時、丁度別の方も亡くなったんです」
「あ、やっぱり私は死んじゃったんですね……」
「ええ、残念ながら。あなたは、ちゃんと人生を全うしましたよ。それで、あなたと同時刻に亡くなった方にも同じように私は会いに行ったんです。その方は、人生に悔いは無いと言ってました。まだ全然生きれたのに、途中で投げてしまったんです」
「そ、それって、自殺したって事ですか?」
なんと勿体無いと思ってしまった。
私の考えを神様はわかったのかくすりと笑うのだ。
「そうですね。それに近いといえば近いですね。まぁ、その方は人生を自ら投げました。本人と話し合った結果、ペナルティを受けて貰ってからの転生となります。しかし、その方の体まだ生きてるんですよね」
神様の言ってる事が分からず、クエッションマークを頭に出す。
「ど、どういう事ですか?」
「魂は死んでしまったけど、器は生きていると言ったら分かりますか?」
「な、なるほど……そんな事もあるのですね」
ファンタジーな話だなぁと私は思った。
妄想なら何度もしたが、まさかそのような事が起こるものなのかと思う。
「極稀にですけどね。でも、魂の無い器は直ぐに壊れてしまいます。他の魂があれば話は別ですが」
「そうなんですか?」
「あら? 私が言わんとすることが分かりませんか?」
「?」
「今ならあなたの魂を入れることが出来るんですよ」
「え?」
神様の言葉に、私は慌ててしまいどうして良いか分からなくなった。
「や、やはり人様の人生を勝手に私なんかが使っては……も、申し訳ないような気が……」
「じゃあ、あなたも普通に転生で良いのね。あなたの転生は……ちょっと未定みたいね。永久に魂のままかもしれないけど……」
神様は、光の書類のようなものを取り出しぱらぱらめくりながら言う。
私はその言葉に、今にも泣きそうで悲しそうな表情をしてしまっていた。
神様はそれを見て、慌ててフォローを入れ始める。
「ほ、ほら、も、もしかしたら、ぽんぽんと決まるかもしれないのよ。だから、そんな顔しないで……」
「……」
神様は、失敗したと思いながら頭を抱えるのだ。
「それでも、こんなチャンス滅多にない事なのよ……。魂だけが死んで、器のみ残るなんて数百年に一回あるかどうかなの。あのまま放っておいたら……大変な事になるの」
「ど、どうなってしまうんですか?」
私に食いつきを見て、神様は悪魔のような表情を浮かべてました。
見間違いかな?
「転生に行った魂の子が、とんでも無いことになっちゃうのよ」
「あれ? 先程、ペナルティを受けてどうとかって……」
「そ、そうでしたっけ? もういいからそういうの……だ、だから器にあなたが入れば全てうまくいくのよ!」
「何か引っかかりますが、それをする事で魂の方は救われるのですか?」
「もちろんよ。そうしないと可哀想な事になるのは間違いないから! その子の為に、役に立てるのだからお願い」
人の役に立つの一言で、私の迷いは消え去った。
「で、では、私を転生その方の器に転生させて下さい。私は、誰かの役に立ちたいんです!」
誰かの役に立てる。
それをするには、器に入らなければならない。
それで役立てるならお安い御用。
そのまま、私はその体でもっともっと役立てるように頑張ろうと思うのだ。
「はい、契約成立!」
「え?」
「注意事項を言います」
「あ、あの私物凄く光ってるのですが……」
「ええ、この注意事項が終われば転生されるからね」
「ま、まだ、心の準備が……」
体が宙に浮き真っ白な光に包まれる。
神様は最高のスマイルをし、腕をこちらに向け言ってくるのだ。
「その一、その転生する器は、ちょっと体が弱いの。といっても、日常生活には全く支障はないから安心してね」
「は、はい」
「その二、器の記憶が転生したら流れ込んでくるから、どんな生活をしていたかとか言語の心配は不要だからね」
「わ、わかりました」
「その三、絶対に悔いの無い人生を生き抜くこと! 今回の転生は、途中で投げ出したら二度と転生できないからね」
「はい、元の方の分まで悔いの残らない人生を歩みます!」
「その四、まぁ、これはお願いという感じかしら……器の子の可能性をもっと広い視野で見て欲しいの……あの子はそれに気が付かなかったから」
「私は、元の体の子の事もよく考えたいです。どのような方だったのかとか……」
「やっぱり、あなたは優しいわね……」
「?」
「よーし、じゃあ、転生するわよぉ―!!! 女神封印解放! 異界転生!!」
「え?」
聞きなれない言葉に、私は変な声が出てしまった。
異界? 地球ではない? この疑問を聞く前に、私は一瞬で光に圧縮され、真上に打ち上げられた。
その衝撃に、私は意識を無くした。
「ふぅ……。良かった……」
「本当によくこんな事するわね……この区域は私の管轄なのに。規約違反よ今のは……」
「あら? 見てたの?」
「あなたは、一人の人間に固執し過ぎじゃないの」
「あの子は良いのよ。私にとってちょっと特別なの」
「まあ、良いけどね。さっさと次に行くわよ」
「あ〜、神様もお休み欲しいよ〜」
「十分休んだでしょ……本当に……」
二人は、真っ白な羽を生やしその場を後にするのであった。