楔
あるところに本を読むのが好きな男がいました。
彼は本を読むのが好きで本当にたくさんの本を読んでいました。
たくさんの本を読んでいる内に彼は様々な境遇の元でこの本が書かれていることを知りました。
ある作家は年老いて病気になってしまった両親を養いながら、必死で本を書いていました。
ある作家は病気になっても死ぬ寸前まで必死で本を書いていました。
そのような境遇を知ってもに彼は何もできませんでした。
ただ、作家の本を読んで感想を書くことしかできませんでした。
月日が経ち、彼はいつしか本を書くようになりました。
いや、それは本ではなく唯の文章でした。
彼はたくさんの本を読みましたが、書く方法について知らなかったのです。
彼は筆を折ってしまいました。自分には書けない、書く資格がない、と諦めてしまいました。
その後も彼はたくさんの本を読みました。でも、彼はもう本を書こうとはしませんでした。
また、月日が経ち、彼は自分の思いを持て余し、それを文章にしました。
彼の持て余した思いは区切りがつきました。文章は読んでもらえたこともありましたが、読んでもらえないこともありました。
彼はそれからもたくさんの本を読みました。そして、気持ちを持て余す度に文章にしました。
そうしているうちに、彼はある作家と出会いました。
彼はすごく丁寧に自分の思いを本に表していました。そしてそれは他人に認められていました。
彼もその本を読み、感動しました。そして、自分の思いをここまで丁寧に表現できる人がいることに驚きました。
それから、彼はまた別の作家に出会いました。
彼はすごく率直に自分の思いを本に表していました。そしてそれは他人に認められていました。そしてそれ以上に彼は他人を認めていました。
彼は本以上に彼が他人を認めている姿に感動しました。彼のその姿勢に、行動に感動しました。
そして、彼はまた筆をとることにしました。拙くても本を書くことにしたのです。
それから、少しずつですが、彼の周りには輪が広がっています。
彼は今の気持ちを忘れないように、楔としようと考えました。
ただただ、ありがとうという言葉を忘れないように。その言葉を楔として。