嵐の後
シロアムは生きていた。
どうやら俺の早とちりだったようで、彼女は全くの無事だった。
後から分かった事だが、狼に食われたあの腕の持ち主は全く別の村娘だそうだ。
それを聞いた時俺は身勝手にも、良かった、だなんて思ってしまった。
襲われたのが、シロアムやマリアじゃなくて良かった、と心の底から思ったのだ。
そう、マリアも無事だった。
それどころか、とうとう狼の姿すら見る事が無かったそうだ。
今回の狼たちの襲撃は、過去に発生した時の状況と比較すると被害が軽く、復興も容易であるそうだ。
やはり、比較的早期に狼たちが逃げ出した事が大きかったのだろう。
狼たちのリーダーであろう狼を倒した、というのは誰にも言わなかった。
狼たちを倒す為に使ったあの力は、そうやすやすと他人に話して良い力では無いと思ったのだ。
あまりに強大な能力は結果として俺を孤立させるかもしれない。
唯一の目撃者であるシロアムには、この事を秘密にするよう話をつけた。
シロアム自身には全く俺に対する怯えや嫌悪が無かったのは嬉しいことだった。
狼たちを退け目の前の危機は去った。
しかし、いつ同じような、あるいは更に酷い事態になるかも分からない。
この世界で生きて行く為に、俺はある覚悟を決めた。