表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

呆気ない幕切れ

おかしい。もともとのプロットじゃ、もっと明るくてギャグテイストな作品になる予定だったのに、どんどん作品が独り歩きしていってる……

「あああああああああっ!!」


脳裏をよぎるのはあどけない表情をした幼い少女。

少しませていて、どこか人をからかうような小悪魔さも持ち合わせた少女の微笑。

それらすべてが、もう戻ってこないのだと理解したその時。

ナニかが切れた。


―――見えた。

致命的なほころびが見えた。

狼の首元にちょうど重なるように、いや、其処だけではない。

狼の全身のありとあらゆる場所にソレは見えた。

理由は分からない。しかし、感覚としてわかっていた。

ソレを引き抜けば、コレはこのままではいられなくなる。


俺は僅かな躊躇いもなく、ソレを、引き抜いた。

背筋に悪寒が走る。

―――途端、狼の体が崩れ落ちた。

地に膝をつけた狼の巨体は風にひとなでされると、ぼろぼろと崩れ落ちて行った。

あまりにも呆気ないその終わりに、何の感慨もわかない。

ただ、呆然とそこに立ち尽くしていた。


○○○


方々から、狼の雄叫びが聞こえる。

群れのリーダーがいなくなった事を理解したのか、撤退していく狼たち。

建物の陰に隠れ、震えながら一部始終を見届けていた一人の少女は、

緊張がほどけ、安堵で崩れ落ちそうになる膝に力を入れ、目の前で立ち尽くす今にも崩れ落ちそうな男、

洋平のもとへと駆け寄っていった。


○○○


誰かが駆け寄ってくるのが分かった。

でも、そんなことはもうどうでもいい。

………今回の事は完全に俺の責任だった。

初めから、こうしていればよかったのだ。

俺の能力をもってすれば容易に守れたはずの命さえ守れなかった。

後悔ばかりが次々と浮かんでは頭の中を黒く塗りつぶしていく。

体の底からこみ上げる吐き気と、寒気に震えが止まらない。

なにもかもがどうでも良くなっていく。

震える脚から力が抜けて、地面に膝をつく。

今にも体が崩れ落ちようかというその瞬間。

―――強い衝撃。

次いで、強く抱きしめられた。

一瞬の空白から立ち直る。

俺の頭を抱えているのは、見覚えのある、陶器のように白く、そして布よりずっとやわらかい肌に囲まれた細腕。

押し付けられた胸部は控えめで、抱きしめるその少女もまた、その体を震わせていた。

まさか―――

抱きしめられて動きづらい頭を上に傾け、自らを抱きしめる少女の顔をのぞき見る。

そこには、


もう2度と会えないはずであった少女の顔があった。


頬を滴が伝う。

言葉にならないうめき声をあげながら、俺は震える腕を少女の背中腰へと回し、そしてすすり泣いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ