呆気ない幕切れ
おかしい。もともとのプロットじゃ、もっと明るくてギャグテイストな作品になる予定だったのに、どんどん作品が独り歩きしていってる……
「あああああああああっ!!」
脳裏をよぎるのはあどけない表情をした幼い少女。
少しませていて、どこか人をからかうような小悪魔さも持ち合わせた少女の微笑。
それらすべてが、もう戻ってこないのだと理解したその時。
ナニかが切れた。
―――見えた。
致命的なほころびが見えた。
狼の首元にちょうど重なるように、いや、其処だけではない。
狼の全身のありとあらゆる場所にソレは見えた。
理由は分からない。しかし、感覚としてわかっていた。
ソレを引き抜けば、コレはこのままではいられなくなる。
俺は僅かな躊躇いもなく、ソレを、引き抜いた。
背筋に悪寒が走る。
―――途端、狼の体が崩れ落ちた。
地に膝をつけた狼の巨体は風にひとなでされると、ぼろぼろと崩れ落ちて行った。
あまりにも呆気ないその終わりに、何の感慨もわかない。
ただ、呆然とそこに立ち尽くしていた。
○○○
方々から、狼の雄叫びが聞こえる。
群れのリーダーがいなくなった事を理解したのか、撤退していく狼たち。
建物の陰に隠れ、震えながら一部始終を見届けていた一人の少女は、
緊張がほどけ、安堵で崩れ落ちそうになる膝に力を入れ、目の前で立ち尽くす今にも崩れ落ちそうな男、
洋平のもとへと駆け寄っていった。
○○○
誰かが駆け寄ってくるのが分かった。
でも、そんなことはもうどうでもいい。
………今回の事は完全に俺の責任だった。
初めから、こうしていればよかったのだ。
俺の能力をもってすれば容易に守れたはずの命さえ守れなかった。
後悔ばかりが次々と浮かんでは頭の中を黒く塗りつぶしていく。
体の底からこみ上げる吐き気と、寒気に震えが止まらない。
なにもかもがどうでも良くなっていく。
震える脚から力が抜けて、地面に膝をつく。
今にも体が崩れ落ちようかというその瞬間。
―――強い衝撃。
次いで、強く抱きしめられた。
一瞬の空白から立ち直る。
俺の頭を抱えているのは、見覚えのある、陶器のように白く、そして布よりずっとやわらかい肌に囲まれた細腕。
押し付けられた胸部は控えめで、抱きしめるその少女もまた、その体を震わせていた。
まさか―――
抱きしめられて動きづらい頭を上に傾け、自らを抱きしめる少女の顔をのぞき見る。
そこには、
もう2度と会えないはずであった少女の顔があった。
頬を滴が伝う。
言葉にならないうめき声をあげながら、俺は震える腕を少女の背中腰へと回し、そしてすすり泣いた。