うで
グロ回はもうちょっとだけ続くんじゃ
村中を駆け回っての治療行為が半ばルーチンワークと化してきたころ。
俺の耳に聞き覚えのある声の悲鳴が上がった。
……シロアムかっ!?
悲鳴から間をおかずして、声の聞こえたほうに極大のシミが広がる。
急いでシミの発生したほうへと駆けつけ―――
シミが、消えた。
え……?
事態がうまく呑み込めない。
今まで無かったケースだ。
俺が直接手出しをしていないにも関わらず黒いシミが消えたのだ。
困惑を隠しきれずに歩みを止めてしまったが、すぐに気を取り直してシミがあった場所へと歩き始める。
嫌な予感が首をもたげる。
自然と歩調が速くなり、やがて駆け出した。
視界をふさいでいた住居を迂回し、シミのあった場所へとたどり着いた俺の前に見えたのは、
村の入口付近で出会った、言葉を話す大きな狼の背中だった。
「おいっ!お前―――」
声を張り上げた俺に気が付いた狼は、その顔をこちらに向けると、口にくわえていたナニかを飛ばした。
ベチャ、と嫌な音をたて目の前に転がったソレに目を向ける。
どこか見覚えのあるソレ。
美しい二本の流線型にかたどられた、陶器のようなその先につながるのは
小さな、そして、白く繊細な指。
指?
「あ……ああ……」
状況を理解しつつある頭が、警笛を鳴らす。
ソレがなんなのか、理解してはいけない。
理解した瞬間に、線が切れてしまう。
時が凍ったかのような濃縮された時間の中で、頭が少しづつ認識を始める。
ああ、そうか、これは……シロアムの―――
そこには、上腕の半ばからもぎ取られた腕が、転がっていた。
こうしてはいられない、一刻もはやく彼女をたすけないと……。
見えない。
狼が口を開いた。
見えない。
ナニかを言おうとしている。
見えない。
カカッ、と狼は愉快そうに笑うと、
見えない。
「ここまですれば治せまい?」
そう……ほざいた。