血塗れ狼
一人称視点で書いてると、三人称視点で書きたい場所が出てきてつらい。
血塗れ狼
―――全身が赤い体毛に覆われた極めて凶暴な魔物で、群れを成す性質をもっている。
その姿形は動物の狼と同じであるが、特筆すべきはその大きさ。
動物の狼の2倍近い大きさを誇るのだ。
体高2m、平均重量100kgを超える肉食動物が群れを成して襲い来るのだ。
その脅威たるや想像に難くない。
もし、一般的な村や集落が、この魔物に襲われたならば、壊滅も免れないであろう。
…というのは、マリアが以前話してくれた事だ。
ここで、一つの疑問が挙がる。
何故、このラスエイルはこれまでのところこの狼たちによって滅ぼされていないのかということだ。
それはこの狼たちが他の多くの魔物や動物には見られない奇異な性質を持つ為だった。
それは、回遊、とでも呼ぶべき性質であった。
彼らはさながらモンゴルの騎馬民族のように、生活拠点を移しながら生きるという性質を持っていた。
彼らが一か所にとどまることはなく、ある地域の食糧を食らい尽くせば次の地域へといった具合に狩場を
移していくのだ。
加えて彼ら全体の生息数は多くなく、同じ個所へと回ってくるスパンもかなり緩やかなものであった。
さらに、彼らは夜の間、それも一晩しか狩りを行わない。
つまり、一晩耐え忍ぶことができれば、彼らは去っていくのだ。
しかし、現実は非常なり。
彼らが訪れる間隔は緩やかであるとはいえ、彼らが訪れないわけではない。
わずか一晩を耐え抜くために、決して少なくない数の村人たちが亡くなるだろう。
その獰猛な狼たちがやってくるたびに、指を咥えながら村が壊滅していくの見守るしかなかったのだ。
「血塗れ狼……何てこと……」
瞳を絶望で塗りつぶしたシロアムが言葉をこぼす。
ラスエイルの村人たちにとって血塗れ狼たちの襲撃は絶望的な災害だった。
シロアムだけではない、ラスエイルの村中にどんよりとした空気が立ち込めていた。
しかし、そんなラスエイルの中にただ一人、平時と変わらず能天気な面を引っ提げている男がいた。
「……血塗れ狼、ね」
そう一言呟くと、村の入口へと俺は駆け出して行った。




