天使の梯子
「空を、飛びたいな」
突然、彼は言った
少しおどろいて
「どうしたんだい?いきなり?」
と、答えた
「この空を見なよ」
ゆっくりと上を見る
眩しくて目が細目になる
青い
どこまでも青い
青過ぎる
すると彼は何かあきれているような口調で言った
「飛びたくなるだろ?」
たぶん彼は、この空の美しさにあてられてしまったみたいだ
僕は、少し時間を空けて答えた。
「……知ってるかい?空ってのは、とても冷たいところなんだよ」
すると彼は信じられないような口調で言った
「うそだ〜い。太陽に近いんだからあったかいに決まってらぁい」
僕は失礼とわかりながら少し微笑んでしまった
彼の素直な心がそうさせたのかもしれない
「……寝っ転がってごらん」
僕はそう言って大の字になって寝っ転がった
それを見て彼もゴロンと寝っ転がった
新緑の匂いと、大地の匂いがする
思わず深呼吸をする
なによりとても
「ポカポカだね〜」
彼はほへ〜っとした顔で言った
だから僕もふへ〜っとした顔で言った
「だろ?この広大な大地が太陽を体一杯で受け止めてるからこんなにあったかなんだ。空には太陽を受け止めるものがないんだよ」
彼はすぐには答えなかった
すこし経ってから彼は何かひらめいたみたいでとても嬉しそうに答えた
「でも、雲があるじゃないか」
指差した向こうから雲がモクモクと立ち込める
いつしか空に青は消え、灰色の雲が覆い始め
「ん?雨だ」
「ハ、ハ、ハ、ハックシュッ!!さ、寒〜!!」
彼が寒そうだ
なんとかしなくちゃ
「あの樹の下へ行こう」
力強く根を張る大樹へ向かう
決して真っ直ぐではない
だけど、確実に空を目指して伸びている
「全っ然あったかくないじゃないか」
彼はぷりぷりと怒っている
どうしよう
「それは雨だからしかたがないって」
当たり前のいいわけしか出来なかった
案の定彼はぷりぷりしながら言った
「でも、雲の上はいつも晴れてるんだろ?それに太陽の光が降り注いでこないってことは、雲がちゃんと受け止めてるってことだろ?だったら、雲の上のほうがずっとポカポカしてるんじゃないの?」
僕はゆっくりと、ゆっくりと何かが湧き出てくるみたいな変な感じに陥った
僕は今の自分の状態がよくわからなかったけど、何か答えなくちゃと思い答えた
「……そうだね……そうなのかもしれない。空にいると大地の暖かさはわからない。それと同じで、地上にいないと空の温かさはわからないのかもしれないね」
彼がそう言うと薄暗い世界から雨粒が大地にぶつかる衝突音が消えた
雲が動く
雲の隙間から太陽の光が大地に突き刺さった
「それじゃあ、行こうか」
彼は突き刺さった光の前に立ち言った
次々と雲から太陽の光が大地に突き刺さっていく
暗い緑と明るい緑の模様が見渡す限り続いていく
「どこへ?」
彼は人差し指を一本立て、ゆっくりと上に持っていき
「空へ」
眩しい。
彼を見ていると、安心してついて行ける。
ボクはそう思った
さっきまでの大雨のように降り注ぐ光芒に手を掛け、足を掛け
そして、登り始める
一歩一歩を確かめながら
心躍らせながら
僕らの未来のように輝く
大空へ
tHe EnD
雲の上に行くまで結構時間かかるだろうなあ。