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流星演舞  作者: エディ
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簒奪

簒奪



 カスティナラバ帝国。

 現状における銀河系人類社会において、五つの強大国のひとつに上げられる国である。

 かつて、この帝国を築き上げたのはトラヴゥンコール・サータヴァーナ皇帝であるが、その血統による支配は、このときを持って終焉しようとしていた。


 すべては、もはや彼女の前で従うのみだ。

 赤い深紅の髪と瞳の女。それは脈動する血液のように赤く、まるで鮮血を連想させる。その最たるものが、彼女の赤い唇。

 鳥肌がたつほどに、ぞっとするような美女。

 ただし、それは美しさの中でも妖艶というしかない美しさ。あるいは、魔性の美貌だった。

 だが、その魔女にもっとも似つかわしくないのが……いや、それゆえに似つかわしいのかもしれない。

 この宇宙という巨大な生命体であり、そして世界そのものが誕生した瞬間を思わせる、始まりの炎ののような瞳だった。


 その彼女の瞳が、目の前に居並ぶ者たちを見る。

 この場に集うものは、帝国にいる千名を超える貴族と、宮廷に仕える官僚たちだ。この国の中枢とも言うべき者どもだった。

 その者たちの多くは、彼女の美貌に目を奪われている。その多くが、喜びと恍惚を浮かべている。

 彼女がいるだけで、男とは全てがそうなってしまうのだ。

 それは、この場に強制的に引き出されている、敗者となった者たちでさえ、無縁ではいられない。

 ただ1人の人物を除いて。


 ―――ニッコリ


 彼女は笑った。

 だが、反対にその人物は笑わない。

 いい目立った。

 反逆し、今にも彼女を殺しかねないほどに、強烈な瞳だ。こういう眼はとても好きだった。

 少なくとも、怯えてビクビクするだけの、役にも立たないザコを見るのに比べれば、彼女の中に宿る狂気に、嬉しさを与えてくれた。

(いいのよ、坊や。あなたが私の寝首をかいて下さっても)

 勝者となったからではない。

 彼女は、心の中から本当にそう願ってやまなかい。


 だが、その人物より視線を外した。

 彼女が歩みを進めて、この場で最も高い位置に設えられた座へと向かう。

 漆黒と銀の粒。銀河をもして作られたその椅子は、この国の皇帝のための玉座だった。

(つまらないイスね)

 と、内心で彼女は玉座をあざける。

(こんなものはいくつでも持つことができる。

 たかだか銀河を支配する程度のことに、なぜ多くの人間は心を砕くのかしら?)

 そう、思いながら、彼女は目の前の玉座より振り向いた。


「ワーーーー」


 集う貴族たちの歓声が上がる。

 それを片手で静止、彼女は微笑んだ。

 そして、ゆっくりと玉座へと腰を落ち着けた。


「カスティナラバ帝国第29代皇帝、カステイア陛下御即位!」


 その場に声が轟き、彼女の即位を宣布する声がした。それを機に居並ぶ者たちが歓声と拍手を上げようとした。

 しかし、それよりも早く彼女は訂正させる。


「間違っている!」


 一瞬にして静まり返る場内。


「私は、たった今を持って新たな王朝の君主となったのです。

 確かに私がカスティナラバの皇帝となりました。

 ですが、私をそこにいる愚図な坊やの血統と一緒にされては困るわね」


 そういい、玉座に腰を落ち着ける美女は、目の前に引きずり出されている人物を見た。

 彼女の率いる軍によって玉座を追われた、ついさっきまで皇帝だった男だ。この男のことを、彼女は昔から坊やと呼んでいる。

 それは、彼が皇太子であった時も、そして皇帝の位に君臨してからもだった。


 サータヴァーナ王朝カスティナラバ帝国の皇帝……いや、元皇帝たるアラハバート陛下。


「ねえ、坊や?

 私をこの国の皇帝などと認めたくないでしょう?」

「……」

 彼女の問いに、しかし元皇帝は顔をそむけるだけで、抵抗する。

(ああ、つまらない。なんだ、やっぱりこの程度のことしかできないのか)

 視線を外した元皇帝に、カスティアは失望した。

 何かを言う必要はない。

 だが、この私に挑むのならば、せめてにらみ返すくらいのことができなくては面白くない。それでこそ、少しは今後の楽しみになるというのに。


 彼女が元皇帝に向けていた視線は、彼女の興味が失われると同時に、別の方を向いた。

 彼女は再び居並ぶ貴族たちに向けて言い放った


「いいですか。

 私は新たな王朝の当主となりました。

 そう、ルディーナヴァル大公カスティアが、今日よりこの国の主となるのです。

 ですから、29代目の皇帝ではなく、1代目の皇帝になるのです」


 そう、彼女は命じた。

 ルディーナヴァル大公カステイア。それが彼女の名だ。

 サータヴァーナ王朝下では、大公家の当主として君臨した女の名前。だが、前の当主である祖父が当主を務めていた時代に、すでにルディーナヴァル家は皇帝家を超える権力と権限を掌中に収めていた。

 皇帝は、単なるお飾りと化していたのだ。

 祖父が帝位につかなかったのは、皇帝の存在を恐れてのことではなく、単に時間がそれを許してくれなかったからにすぎなかった。

 そう、人間に与えられている時間からは、彼女の祖父とても逃れることができなかったのだ。



「ルディーナヴァル王朝創始者であられる、カスティア陛下ご即位!」


 場内に改めて、彼女の即位を知らせる声が響いた。

 今度は満場の完成と拍手が場内に響き渡る。

 この場に居並ぶ帝国の貴族たちは、このときよりすべて彼女、カスティアの臣下となった。

 新たな王朝の創設者たる皇帝に、臣下たちは一斉にひれ伏すのだった。


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