夜中に咲く色彩
お母さんとお父さんの、あんな泣き顔を見たのは初めてだった。
あんなに喜んでくれるなんて思わなかった。
胸の奥がずうっと温かくてポカポカしたまま、私はその夜、いつもよりずっと早く眠りについた。
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のどが渇いて目が覚めた、時計を見ると夜中の1時。
部屋は真っ暗で静かだ。
私はベッドをそっと抜け出して、階下のキッチンへ向かった。
廊下は、シンとしている。
階段をきしまないようにゆっくり降りて、キッチンの手前のダイニングルームのドアを開けようとした
その時。
…声?
ドアの隙間から明かりが漏れている。
こんな時間に…?
私はおどおどと足を止めた。
「…ん、…ぐすっ…」
「…おいおい母さん、まだ泣いてたのか」
お父さんとお母さんの声だ。
私はびっくりして、ドアの隙間にそっと耳を寄せた。
「…だって…あなた…嬉しくて…」
お母さんの鼻をすする声が聞こえる。
「…毎日毎日葵がね…、学校から帰ってきて『ふつう』って言うたびに、…私の心臓がきゅうって…潰れそうだったんだから…」
「…ああ、分かってる」
お父さんの優しい声。
「…俺だってそうさ、…この間の担任の先生からのお電話の時なんて、…俺は何か育て方を間違えたのかって…本気で悩んだ」
…せんせいから…でんわ?
私、何も悪いことしてないのに。
どうして先生から電話がくるんだろう。
私は不思議に思いながらさらに耳を澄ませた。
「…『葵さんは悪くありません。ただ少し…繊細で…クラスの輪に入っていくのが苦手なだけで』って…先生は庇ってくださったけど…」
お母さんの声がまた涙で震える。
「…でもこのままあの子がずっと、一人ぼっちだったらって……、毎晩あなたと話して…私…怖くて…」
「…もういいんだ」
お父さんの声がお母さんを包み込むのが分かった。
「…今日あの子、笑ったろ」
「…うん…!」
「…『友達ができた』って。…あんな顔久しぶりに見た」
「…うん…うん…!」
「…よかった。…本当に、よかったな」
…お父さんも泣いてる。
私はドアの前で固まったまま動けなかった。
知らなかった。
お父さんもお母さんも、私が学校で一人でいることを先生から聞いていて、毎晩私のことで悩んで、泣くほど心配してくれていたなんて。
私のせいで、お父さんとお母さんまで悲しい思いをさせてたんだ。
…ごめんなさい。
でも「よかった」って言ってくれた。
泣きながら笑ってくれた。
胸の奥が、さっきよりももっとずっと熱くなった。
のどが渇いていたことなんてもうすっかり忘れてしまった。
この温かい熱が、お茶の代わりだった。
私は音を立てないように、そっとその場を離れて自分の部屋のベッドに戻った。
…しおりさん。
暗闇の中で、私は昼間握られた左手を、もう一度ぎゅっと握りしめた。
…ありがとう。
…明日学校に行ったら、…今度は私のほうから「おはよう」ってちゃんと言おう。
その夜はもうのどが渇くこともなく、私はとても温かい夢を見た。




