表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日光は、私を捨てた  作者: R.D


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

夜中に咲く色彩

 お母さんとお父さんの、あんな泣き顔を見たのは初めてだった。


 あんなに喜んでくれるなんて思わなかった。


 胸の奥がずうっと温かくてポカポカしたまま、私はその夜、いつもよりずっと早く眠りについた。


 ______________________________




 のどが渇いて目が覚めた、時計を見ると夜中の1時。


 部屋は真っ暗で静かだ。


 私はベッドをそっと抜け出して、階下のキッチンへ向かった。


 廊下は、シンとしている。


 階段をきしまないようにゆっくり降りて、キッチンの手前のダイニングルームのドアを開けようとした


 その時。


 …声?


 ドアの隙間から明かりが漏れている。


 こんな時間に…?


 私はおどおどと足を止めた。


「…ん、…ぐすっ…」


「…おいおい母さん、まだ泣いてたのか」


 お父さんとお母さんの声だ。


 私はびっくりして、ドアの隙間にそっと耳を寄せた。


「…だって…あなた…嬉しくて…」


 お母さんの鼻をすする声が聞こえる。


「…毎日毎日葵がね…、学校から帰ってきて『ふつう』って言うたびに、…私の心臓がきゅうって…潰れそうだったんだから…」


「…ああ、分かってる」


 お父さんの優しい声。


「…俺だってそうさ、…この間の担任の先生からのお電話の時なんて、…俺は何か育て方を間違えたのかって…本気で悩んだ」


 …せんせいから…でんわ?


 私、何も悪いことしてないのに。


 どうして先生から電話がくるんだろう。


 私は不思議に思いながらさらに耳を澄ませた。


「…『葵さんは悪くありません。ただ少し…繊細で…クラスの輪に入っていくのが苦手なだけで』って…先生は庇ってくださったけど…」


 お母さんの声がまた涙で震える。


「…でもこのままあの子がずっと、一人ぼっちだったらって……、毎晩あなたと話して…私…怖くて…」


「…もういいんだ」


 お父さんの声がお母さんを包み込むのが分かった。


「…今日あの子、笑ったろ」


「…うん…!」


「…『友達ができた』って。…あんな顔久しぶりに見た」


「…うん…うん…!」


「…よかった。…本当に、よかったな」


 …お父さんも泣いてる。


 私はドアの前で固まったまま動けなかった。


 知らなかった。


 お父さんもお母さんも、私が学校で一人でいることを先生から聞いていて、毎晩私のことで悩んで、泣くほど心配してくれていたなんて。


 私のせいで、お父さんとお母さんまで悲しい思いをさせてたんだ。


 …ごめんなさい。


 でも「よかった」って言ってくれた。


 泣きながら笑ってくれた。


 胸の奥が、さっきよりももっとずっと熱くなった。


 のどが渇いていたことなんてもうすっかり忘れてしまった。


 この温かい熱が、お茶の代わりだった。


 私は音を立てないように、そっとその場を離れて自分の部屋のベッドに戻った。


 …しおりさん。


 暗闇の中で、私は昼間握られた左手を、もう一度ぎゅっと握りしめた。


 …ありがとう。


 …明日学校に行ったら、…今度は私のほうから「おはよう」ってちゃんと言おう。


 その夜はもうのどが渇くこともなく、私はとても温かい夢を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ