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あの日光は、私を捨てた  作者: R.D


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3/6

七色の色彩

 しおりさんが転校してきてから、三日が過ぎた。


 クラスの中心にはいつも彼女がいる。


 リーダー格の鈴木さんたちが、彼女を囲んで黄色い声を上げている。


 私は、その光景を教室の隅から、ただぼんやりと眺める。


 …いいな。


 羨ましい、という気持ちが胸をチクリと刺す。


 でもすぐに怖くなった。


 彼女もきっとすぐに私を「いないもの」として扱うようになる。


 だから私は、彼女のことなんて見ないようにしていた。


 世界が灰色に戻っていく。


 サリ、サリ、サリと。


 私は、自分の結界に戻る。


 A4の白い紙。


 私はそこに私の唯一の「祈り」を描いていた。


 灰色の空じゃない。


 いつか見たいと願っている、空いっぱいに広がる「七色の虹」を。


 その時だった。


 不意に、私の机の前に影が差した。


 ビクッと肩が跳ねる。


 心臓が喉の奥で大きく跳ねた。


 …どうしよう。


 …私、なにかしちゃったのかな。


 おそるおそる、顔を上げる。


 ――そこに立っていたのは、しおりさんだった。


 鈴木さんたちの輪から、いつの間に抜けてきたのか。


 彼女は何も言わない。


 ただその、ガラス玉みたいな大きな瞳で、まっすぐに私のスケッチブックを覗き込んでいた。


 時間が止まる。


 何を言われるんだろう。


「変な絵」って笑われるんだろうか。


 頭が真っ白になる。


 その時だった。


 クラスのリーダー格の鈴木さんが、慌てたようにしおりさんの元に駆け寄ってきた。


 そして、しおりさんの耳に何かをひそひそと囁いているのが見えた。


 鈴木さんが、ちらりと私の方を見て意地悪く笑った。


 …ああ、まただ。


 …やっぱりそうなんだ。


 胸がきゅうっと痛くなった。


 どうせ「あの子には関わるな」って言ってるんだ。


 ほら、しおりさんも困った顔をしている。


 光の世界の住人は、影の世界の住人とは関わってはいけない。


 それがこの教室のルールだから。


 …やっぱり誰もが私から離れていくんだ。


 私は、涙がこぼれそうになるのをこらえて、スケッチブックを閉じようとした。


 だが次の瞬間。


 私は信じられない光景を見た。


 しおりさんは、鈴木さんに何も答えなかった。


 頷くでもなく、嫌な顔をするでもなく


 まるで鈴木さんが、そこにいないみたいにその横をすり抜けて――


 ――再び私の机の前に戻ってきたのだ。


「…あの」


 しおりさんが私に声をかけた。


 私の小さな肩がまたびくりと震える。


 ゆっくりと顔を上げると、


 彼女のそのガラス玉みたいな瞳が、


 まっすぐに私を見つめていた。


 彼女の瞳の中に私の描いた虹が映っている。


「………すごい、きれいな色」


 しおりさんのその言葉が、私の耳に届いた瞬間、私がずっと張り巡らせていた灰色の「結界」が音を立てて崩れていった。


 ダメだと思っても、私の瞳から一筋涙が零れ落ちた。


「どうして泣いてるの?」


 不思議そうに首を傾げる彼女に、私は何も答えられない。


 ただしゃくり上げる私を、彼女は困ったように見つめていたが、


 やがてふっと小さく笑った。


「私、静寂しおり」


 彼女は私に手を差し出した。


「よろしくね」


 その日から私の灰色の世界は終わりを告げた。


 私の隣にはいつだってしおりさんがいた。


 クラスの誰とも話さなくなった。


 でも不思議と寂しくはなかった。


「ふたりぼっち」の聖域が生まれた瞬間だった。

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