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あの日光は、私を捨てた  作者: R.D


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2/6

色彩の色

 次の日。


 私の灰色の世界に予告なく「色」が放り込まれた。


「――はい、今日からこのクラスの仲間になる、静寂しおりさんです」


 先生の言葉と同時に教室のドアが開く。


 そこに立っていた少女を見た瞬間。


 私は息をするのを忘れた。


 昨日まで私がスケッチブックの中に閉じ込めていたどの絵の具よりも鮮やかな「色」がそこに立っていた。


 黒曜石みたいなまっすぐな髪。


 雪みたいに白い肌。


 そしてすべてを見透かすような静かな瞳。


 彼女は一言「よろしくお願いします」と呟いただけだったのに、教室中の空気が変わったのが分かった。


 クラスがざわめいている。


 先生が指差した彼女の席は窓際。


 私とは教室の対角線上で一番遠い場所だった。


 …やっぱりそうか。


 私には関係ない。


 昨日までの世界と、何も変わらない。


 私はまたスケッチブックに目を落とし、冬の木を描く作業に戻ろうとした。


 休み時間になると案の定だった。


 昨日まで、私のことを嘲笑っていたクラスのリーダー格の鈴木さんたちが、真っ先に彼女の席に殺到した。


「静寂さんだよね!私鈴木!よろしく!」


「どこから転校してきたの?」


「うわー髪サラサラ!シャンプー何使ってるの?」


 黄色い甲高い声。


 昨日までの私に向けられていた「騒音」とは違う種類の騒音。


 私はスケッチブックから顔を上げずにその光景を「音」だけで聞く。


「…東京から」


「…特に決めてはないかな」


 しおりさんの声が聞こえる。


 淡々として、静かで、感情がどこにもない。


 リーダーの鈴木さんたちがどれだけ興奮して話しかけても、彼女はただ求められた答えを完璧に返しているだけ。


「なんとなしに」話しているその温度のなさ。


 でも鈴木さんたちは、それに気づいていない。


 新しい、美しい「おもちゃ」を手に入れてただはしゃいでいる。


 しおりさんはまだ私に気づいていない。


 当然だ。


 私は「影」なのだから。


 光の当たる場所にいる彼女たちからは私なんて見えているはずがない。


 …いいな。


 心のどこかでそう思った。


 私もあんな風にきれいで、あんな風に自信があったら。


 鈴木さんたちのグループにいられたら。


 …ううん、違う。


 私はただ、この灰色の結界の中で静かにしていられればいい。


 光は光の世界へ。


 私は私の影の世界へ。


 サリ、サリ、サリと。


 私は今日もただひたすらに鉛筆を握る手に力を込めた。


 灰色の幹をもっと濃く、もっと黒く塗りつぶしていく。


 そうでもしていないとあの「色」が眩しすぎて泣いてしまいそうだったから。

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