砂上の平和
偽りの英雄たちが大陸を寸断した大戦が終わり、五年。
エレジア大陸には、血と裏切りによってではなく、対話と譲り合いによって築かれた、束の間の平和が訪れていた。
とりわけ、王国の西に位置する三国――港湾都市リューベック、軍事都市ニュルン、山岳都市ザルツが新たに結んだ「三国連合」の復興は、目覚ましいものがあった。
かつて彼らは、英雄の一人「影の手」セレーネの甘言に乗り、王国へ反旗を翻した「三国同盟」だった。
三国同盟と王国との戦争の危機を回避させたのは、当時まだ一介の捜査官だった宰相カイル・ヴァーミリオンだった。
彼は、敵の謀略を逆手に取る巧妙な情報操作で、彼らが武器を交えることなく自壊するよう仕向けたのだ。
セレーネの死後、王都から派遣された宰相特使リィナ・シルバーアッシュは、その誠実さで、憎しみ合う指導者たちの心を解きほぐした。
そして三国は新たに「三国連合」として歩み出すことになった。
だが、その輝かしい功績の裏には、一つの消えない傷痕が残された。
西側連合の新しい絆は、カイルが仕掛けた「嘘」によって生まれた亀裂の上に、リィナが必死に架けた、あまりにも脆い橋のようなものだったからだ。
指導者たちは、今も心の底では互いを完全には信じきれていない。
民衆の間にも、あの内乱寸前の恐怖と、拭いきれない不信感が澱のように溜まっている。
彼らの平和は、砂の上に築かれた楼閣だった。
誰もがその脆さに気づきながら、しかし、ようやく手に入れた平穏を壊すことを恐れ、見て見ぬふりを続けていた。
――そして、五年目の秋。
リューベックの石畳に、一発の凶弾が放たれた。
それは、ほんの始まりに過ぎなかった。
過去の影が、亡霊のように蘇り、再び西方の大地を覆い尽くそうとしていることを、まだ誰も知らなかった。




