表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

無言の見合い

 伯爵邸に設けられた広間は、豪奢で冷たい静けさに包まれていた。

 白銀の燭台、無機質に並ぶ椅子、壁にかけられた凍ったような肖像画の数々。


 クラリスは小さく震えながら、その中央に座っていた。


「こ、こんにちは……クラリスと申します……」


 対面する男――「氷の伯爵」ことレオニウス・フォン・エルンストは、噂どおりの人物だった。

 長身で、整った顔立ち。だがその瞳は氷のように冷たく、表情はまるで彫像。

 返事もない。ただじっと、クラリスを見ている。


(……こ、怖い……)


 口を開いても、彼はほとんど何も言わない。

 話しかけても、返ってくるのはうなずきや短い返答ばかり。沈黙が続くたび、クラリスの心臓は強く鼓動を打つ。


「あ、あの……お好きなご本とか……読まれたりは……?」


「……読む」


 それきり、また静寂が落ちる。

 空気は張り詰めていて、クラリスは膝の上で指をこすり合わせることしかできなかった。


(やっぱり……私なんかじゃ、ダメだったのかもしれない)


 やがて見合いは形式的に終わり、クラリスは深く頭を下げて、伯爵邸を後にした。


 馬車に揺られながら、彼女はため息を吐いた。


「……やっぱり、あの人には……似合わないよね、私……」


 


 ――だが、数日後。


 クラリスのもとに、王宮を通じて一通の手紙が届く。

 その封には氷の伯爵の紋章。封を切る手が震えた。


『――またお会いしたい』


 その一文だけが、硬い筆致で綴られていた。


「……っ、え……?」


 思わず声を上げるクラリス。手紙を握る手に、じんわりと熱がこもっていく。


 その様子を部屋の扉越しに見たエリザは、鼻で笑った。


「ふん。まさか本当に気に入られるなんてね……さっさと出ていけばいいのに」


 その目には嫉妬か、苛立ちか、あるいは思いもよらぬ焦燥か。

 その感情の正体は、まだ誰にも――本人にもわからなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ