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賭死都市《BETRAY》  作者: hasire
序章
1/1

人間の価値は、賭けられた時に決まる

この世界に“自由”は存在しない。

人間の命は、すでにチップに換算されている。


地上には悪魔が暮らしている。

絶対的な力を持ち、人間を“見世物”として支配する存在。


かつて世界を支配していたはずの人類は、いまや地下に封じられ、

その生涯すべてを、悪魔の“賭博興行”に捧げさせられている。


命も、才能も、希望も、全ては賭けの材料だ。


地下世界レイヤード・コロニー

10層構造の生存管理都市。

その第三層――《サンクティア》は、賭けと戦いに特化した“娯楽階層”だった。


ここではすべての人間に、誕生時から《ベットポイント(BP)》が割り振られている。

それが、その人間の価値であり、命の代わりでもある。


戦えば、ポイントを賭ける。


勝てば、ポイントが増える。


負ければ、失う。


ポイントがゼロになれば、生存権を剥奪される。


戦場は年齢を問わず、学生と大人が交差する。

戦略・交渉・裏切り・暴力——あらゆる手段が許される。

どんな手を使っても、生き残った者が「価値ある存在」として上位層へと推薦されるのだ。


当然、ほとんどの戦いは“能力”によって決まる。

すべての人間は、悪魔から授けられた《加護》を持つ。


火を操る者。空間を歪める者。精神を侵す者。

強き加護を持つ者が勝ち、弱者は淘汰される。


——ただし、例外もいる。


黒烏くろがらす 白鳥はくちょう

高校一年生。サンクティアにある奈落ノ宮(ならくのみや)学苑に所属。

彼の加護は、“分類不能”。

能力らしい能力は何もなく、戦闘力ゼロ。

ポイントも低く、開始時点で100BPしか与えられなかった。


そんな彼が——今、生存ランク“特例昇格者”、BP合計 19,280。


これは、一般成人の倍。

異常だった。


「何故あいつがまだ生きてる?」

「どうしてあんな無能が、俺たちより上にいる?」


誰もがそう思っていた。


その理由は、ただ一つ。


「他人を勝たせる」ことで、最も効率よく利を得ているからだ。


白鳥は自分で戦わない。

自分で勝とうともしない。


だが、戦場に“白鳥がいる”だけで、

味方は勝ち、敵は負ける。


彼は戦略を売り、情報を操り、仕掛けを整える。

時には自分を“負け役”として配置し、

他者に「勝たせるための敗北」を設計する。


「このゲーム、勝った奴が生き残るんじゃない。

“勝った奴を勝たせた奴”が最終的に頂点に立つ」


彼の戦術は、常に数手先の“敗北”を計算に入れている。

勝ち筋ではなく、“負け筋”を誘導することで、全体の流れを支配する。


他人に勝利の果実を与え、

その裏で確実に“信用”と“配当”を得る。


それが、彼の“ギャンブル”だ。


ある日の昼。

白鳥は学園の中庭で、缶のブラックサワーを開けていた。


炭酸の泡が小さく弾ける音。

この音を聞くと、彼は少しだけ“生きている”気がした。


「白鳥、またお前か……」


背後から、年上の男の声。

スーツ姿の傭兵タイプ——《職業戦士》。大人との試合だ。


対戦ルール:2人で最大1000BPを賭け、1勝負の《ベットロワイヤル》を行う。


白鳥の賭け額:たったの10BP。

相手の賭け額:500BP。


「10ポイントなんて端金、賭ける意味あるのか?」

「あるさ。俺が勝てば“お前が負けた事実”が残る。それが重要なんだ」


「……っ。なにを、言って——」


その瞬間、男の《加護》が封じられた。


白鳥は対戦場に“加護干渉型の罠カード”を前日に設置していた。

しかもその情報は、すでに別のギャンブラーに売却済みだ。


「お前、俺に勝って“得”したい奴がいたんだよ」

「俺はそいつの“勝ち筋”になるためにここに来た」


男の顔が蒼ざめる。


「……な、なるほど……お前は……」

「“勝ち筋にすら、ならない者”としてここにいる」


白鳥は静かに答える。


「そう。俺は“勝者を作る敗者”だ」

「……だから、生き残る。誰よりも、確実に」


ギャンブルとは、運と欲望と演出の戦いだ。


そして白鳥は、

“運ばれた勝者を演出する脚本家”として、地下世界を支配し始めていた。

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