【第4話】運命の日
─結局学校には遅刻した。挨拶運動の連中と登校することはおろか、校門から教室まで一人ぼっちで歩くこととなった。
「マジでついてないなそれは」
そう話すのは友人の華村千導。知り合った経緯は、自分の幼なじみである心愛に近づくためのキッカケ作りらしく、当時は腹が立ったが今はすっかり意気投合した。
「寝坊するのが悪いんでしょ。それに、近道するために死にかけるなんてバカじゃないの?」
心愛が耳の痛いことを言ってくる。普段は優しい彼女だが、今回ばかりは流石に呆れたようだ。そんな言葉にさらに気分が落ち込む。
「その辺にしときなよ心愛ちゃん。一真が今にも泣きそうな顔してるぜ」
千導が笑いながら諌めるが、心愛の方を向きながら話しかけておいてどうして俺の顔が分かるというのだろう。
─今日一日は朝のモヤモヤを抱えたまま過ごすこととなった。朝から大変な目に遭い疲れ切ってしまった。トボトボと歩いていると不思議な少女に声をかけられた。
「一真君、少し話を聞いてほしいんだ」
どこか懐かしい感じがする少女にホイホイついていく。疲れてるからか頭がうまく回んない。
「話しってのは?」
虚ろな表情で聞く。少女は怪訝そうな顔をするが、少し考え込んだ後ハッとする。
「つかれてるのにごめんね。これ飲んで。元気になるよ!」
言われるがままに栄養ドリンクみたいなものを飲む。
「わぁ!ハイナ!?どうしてここに!?」
「久しぶりだね。早速だけど依頼があるんだ」
「何だよそれ。あまりめんどくさいことはしたくないんだけど」
「お願い。私は少しの間しかここにいられないから真剣に聞いてほしいんだ」
ハイナの普段見せない顔にドキッとする。
「今世界はね"歪み"を抱えているんだ。原因は恐らくこの世とあの世の境界が曖昧になったから。境界が不安定になった理由はまだ分からないけど、とにかく"歪み"は現実を壊してしまうんだ。最近身の回りでおかしいと思ったことはない?」
真剣な話に気圧されつつも記憶を辿る。
「確かに今朝はやけに信号無視が多かったような気がするな」
「まさにそれが"歪み"だよ。今はルールの無視、つまり秩序の乱れの段階だね」
「"歪み"には先があるのか?」
「分からないけど、確実に言えるのはこのまま"歪み"を放置すると2つの世界が消えてしまうんだ」
「どうすりゃいいんだよ…」
「それは一先ず私達に任せて。今伝えたいのは、君の身の回りの"歪み"に対処してほしいことなんだ」
「俺には…何の力も無いぞ」
「君には危険を回避できる力があるじゃない。もちろん"歪み"に対処できる道具を預けるよ。"歪み"に対して使うとその効力を失うんだ」
「でも俺にそんなことできるのか…」
「お願い。脅すようだけど、ほっとくと周りの人にも危険が及んでしまう」
消え入るような声でハイナは訴える。
「それに頼めるのは君しかいないんだ」
「…分かった」
「良かった。それじゃあお願いね」
一真の物語はこれから急加速していくこととなる─