【第2話】あの世とこの世 ②
「一真君、君は現世で死んじゃったんだよ。だからここにいるの。死因は交通事故。自転車で道路を横断しようとしたら車に轢かれてね。何やってんのさ」
少女は肩をすくめ軽く笑いながら両手を広げてみせた。
「え…」
一真は、少女に呆れられていることに若干の衝撃を受けつつも、少しずつ事の顛末を思い出していった。
(そうか…あの日、寝坊して学校に遅刻すると思って。急いで近道しようと飛び出したら─バスに轢かれたんだっけか…)
「思い出せたかな?」
少女は笑顔で問いかける。
「まぁな。君は慣れっこだな」
少女の笑顔に警戒しつつも聞いてみる。
「そりゃあずっとこんなことしてるんだもん。それに"君"じゃないよ。私はハイナ。短い間だけどよろしくね!」
「あぁ…」
「さぁ、早速いろいろと説明しなくちゃね」
一真のリアクションを待たずに少女は話し出す。
「君は才能って羨ましいと思わない?」
「当たり前だろ!生まれつき頭が良かったり、スポーツ万能だったり、顔が良かったり、親が金持ちとかズルすぎるだろ!」
不満をぶつけるように早口で畳み掛ける。
「その才能ってのは大多数が"恩恵"によるものなんだ。そして君はその選ばれし者ってね!」
ハイナは大袈裟に説明する。
「でも俺は死んだんだろ?生き返れるとでもいうのか?」
「それが…可能なんです!なんと、死んだ日より昔なら好きな時期に生き返えれるんだ」
「本当か?」
「マジだよ」
「いきなり何でも"才能"を得られるとか言われても、普通迷うだろ…」
「あっ才能は1つまでだよ。それに、あまり強い願いだと困ることになるよ」
「例えばどんな願いだとだめなんだ?」
「物理的に不可能なこととか?」
「なんで疑問形なんだよ…」
「だってよく分からないし…」
「飽きるほどこの仕事をしてるんじゃないのかよ…」
微妙な空気が流れる。しばらくの沈黙の後に 、
「じゃあ女の子にモテるようになるとかで頼むわ」
面倒くさそうに頭を掻きながら言う。
「照れてるの?」
ハイナがからかうように聞いてくる。
「…うるせぇよ」
「でもね、モテる努力してるの?才能があっても、ちゃんとしなきゃ碌なことにならないよ。真実の愛は己で掴め!ってね」
「それ言ったら身も蓋もねぇじゃねぇか!身の丈に合った生き方をしろって言うのかよ!」
ハイナのふざけた一言が、一真の心に火を点ける。
「いじわるで言ってる訳じゃないよ。そうやって失敗した人を何度も見てきたから忠告してるんだよ」
「じゃあ…危機回避が出来る才能をくれ。またあの日のみたいに轢かれて死ぬのはゴメンだ」
(時短の為にショートカットして死ぬなんて馬鹿らしいよな。俺の死因でもあるし…)
「急に謙虚になったね。まぁいいよ。生き返る時期はどうする?」
「死んだ日の朝で」
「おっけー。それに決定!」
一真の意外な要求にハイナがニヤリと笑う。話し終え、手の叩く音が聞こえると同時に、一瞬にして一真の視界が闇に包まれる─