猫を撫でたい
中間テストが午前中で終わったので私はいつもより早い時間に下校していた。夏の日差しを浴びつつ頭を揺らしながら歩いている。
頭が重いのは体調が悪い訳ではない。遅れを取り戻すため徹夜をしてしまったからだ。
だがその甲斐もあり手応えはよかったのでギヴアンドテイクといった感じか。
昼食は学校でゆっくり食べるつもりだったのだが弁当を忘れてしまったので仕方なく帰路に付いてたというわけだ。
道のりは楽である。家は学校と同じ地区であるため校門を出てまっすぐ歩けば10分程で着いてしまうのだ。
通勤時間がつらい私にとってこの学校を選んだ大きな理由である。
スカートが揺れる。ぬるい風を感じるながらトボトボ歩いているとふと目に入るものがあった。
猫が寝ていた、月極の駐車場に。
優雅に日向ぼっこしている。塀の角から生えた草が蝉の音色と共に周りを囲っている。
そして、わがままボディである。
ボテっとした身体は首を完全に埋めており、眩しさで閉じられた瞳は長い一本線のように細められている。まさにデフォルトされた置物そのものだ。
触りたい。後ろから鷲掴みにして撫で回しながら顔を埋めながら深呼吸でもしたい。そんな自分勝手な耐え難い欲求が体の芯から溢れ出してくる。
欲に負け、私は決心した。絶対に顔を埋めてやる。
駐車場の入り口隅にある電柱にバッグを立てかけ、腕を巻くる。手首に巻いていたヘアゴムで邪魔にならないように肩まで伸びる髪を一纏めに束ねた。
そしてファイティングポーズのような姿勢を取り、長くなるであろう戦いのゴングを頭の中で響かせ歩きはじめた。
距離は約20m。一歩。右足を前に進める。アスファルトで固められているが小石が多く歩き方を間違えると音がしてしまいそうだ。
二歩、三歩と徐々にではあるが距離を縮める。いつもは使わない筋肉が酷使され震えとして疲れを訴えてくる。
残り1歩ところまで来た。一度動きを止めて考えることにした。素早く触るかゆっくり触るかをだ。
どうしても触りたいので確率の高いであろう素早く触る作戦に揺らいでいる。だが違う。私は悟る。本心は触りたいのではなく仲良く交流したいのだ。そうであれば敵意を向けられるのは本末転倒だ。
決意した私はゆっくりと動き出す。先ほどよりも倍以上にゆっくりと。
両手を伸ばし横腹と横腹に照準を合わせる。これで全て終わると思ったとき、予想外のことが起きた。
額から汗が流れて目に入ってしまったのだ。知らぬうちにじんわりかいていたようだ。
突然の激痛に目が閉じ、小さなパニックを起こしたまらなく手の甲で瞼をかいた。
痛みも治りほんのり残る痒みに耐えながらゆっくり目を開くとまたもパニックに落ちいった。
猫がいない。右と左と見回してもいないのだ。ぐるりとあたりを見るが見つからず思わず俯いたり
あの猫は幻だったのか?暑さと寝不足がみせたものだったのだろうか。
そこで一直線の影からもう一つの影が伸びているのに気づく。直感を信じて私は顔を上げるとそこには塀の上に佇む猫がいた。
どうやら猫の方が一枚上だったようだ。そいつは大きな欠伸をしたあと反対側へと降り去っていった。