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泥水の蓮  作者: siro
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 聖女はしばらくは引き篭もっていようと思っていたが、朝の祈り以外では家の中にいてもやることがなく、神の像の周りを綺麗に整えたり、家の中の神の像が置かれてる部屋を掃除するくらいしか仕事がなく、三日くらいで手慣れて仕舞えば、やることがなく飽きてしまった。

 侍女たちに仕事がないか聞いてもないと言われて仕舞い、一か八かで外に出て良いかクロードウィックに聞くと、もう安全なので出て良いと許可がもらえた。

 久しぶりに出た町の様子は少し変わっていた。

 壊れた壁は修復されたが、前よりも高く積み上げられ頑丈になっていたし、子供達が使っていた小さな穴や、攫われた時に通ったであろう方向の壁は新しい岩で作り直されていた。


「聖女様だー!」

「雨で風邪ひいてたんでしょー? もう大丈夫?」

「あ、みんな。大丈夫だよー」

「本当ーじゃー遊ぼー!」


 どうやら引き篭もっている間は風邪をひいていたことになっていたようで、子供達に心配をさせたくなく、その話に乗ることにした。

 前回できなかった羊の毛刈りを子供達と一緒に行った。

 ハサミをモコモコの毛に突っ込んで切るのは聖女には怖すぎて無理なため、慣れた子供とメヌエットおばあちゃんが手際よく切って行くのを羊を抑えながら見ていた。


「聖女様もやってみるかい?」

「む、むりむり! 皮膚まで切っちゃいそう!!」

「あっははは、確かに下手な子は切っちゃうね」

「やっぱり切っちゃうんじゃん! 抑えるだけでいいです!」


 そう聖女が辞退するもメヌエットおばあちゃんは、簡単な場所を手を添えて切らせてくれた。ジョキっと切る感じは意外にも心地よかったが、感覚が掴めないのでやっぱり怖いと思ったのだった。

 分厚い毛がなくなって楽になった羊は、ほっそりとしたボディで軽快に草原をかけて行くが、毛皮がついてる状態の羊をみていたせいか変な感じがした。


「今日はここまでだね」

「「はーーい」」


 まだまだ毛を刈らなくてはならない羊がいるが、空はもう青から赤へと綺麗なグラデーションに染まっていた。しばらくは毛刈りの手伝いがメインになりそうだと思いながら、帰りの道すがら子供達に刈った毛はどうするのか聞けば、泥で汚れた部分を払い落としたり、切ったりしながら比較的綺麗な毛とそうじゃない毛に分けるて洗い、ほぐして糸にするのだとか。


「わーまだまだ作業は続くんだねー」

「糸にしたりクッションを作ったり色々できるよ!」

「町で使う分が余ったら行商人に売ったりするんだよ」

「行商人ってそういえば見たことないなーいつ来るの?」

「んー数ヶ月に一回だったっけ? そろそろくると思うよ」


 そんな話を聞いて、聖女は夕飯の時間一緒に食事を取れることになったクロードウィックに聞いた。


「行商人がいつくるかですか?」

「はい! 子供達が余った糸は行商人に売ると聞いて、行商人ってことは買うだけじゃなく違うところから買い付けしてるんですよね?」

「えぇ……昔はそうでしたね」

「昔ってことは今は来ないんですか?」

「最近道も整備されたので、町の商人たちが買い付けにいくようになったので、あまり来なくなりましたね」

「そうだったんですね。残念」

「……何か欲しいものでもありましたか?」

「いえ、外のお話を聞いてみたくて、あとどんなものを売ってるのかなーって」

「そうでしたか……聖女様は、この町になにかご不満でもありますか?」

「え?! 不満?! 全然ないですよ? どうしてですか?」

「いえ、外が気になるとおっしゃってたので」

「ただの好奇心です。この町はとても気に入ってますよ。長閑で人も優しいですし、子供たちも遊んでくれますし!」

「ふふふ、それはよかった」


 自分で言って、聖女は子供達に遊んでもらっていることに気づいて顔を赤らめた。子供と一緒に大人のお手伝いばかりしている。


「ここの子供たちの方が、しっかりしてますよね。私の方が年長者なのに」

「子供たちはこの町での暮らしが長いですから、聖女様はまだひよこですからね」

「もっと役に立てるように頑張りますね!」

「もう十分役に立っていますよ。あまり無理をしないでください」


 困ったような表情でクロードウィックが言った。

 もしかして何か迷惑をかけているだろうかと聖女は不安になったが、衣食住を提供してもらっているのだから、何かしら仕事をしたいと思っていた。

 家の中の仕事は侍女たちがしており、自分たちの仕事だからとやらせてもらえないのだ。でも、子供達と行動するといろんな仕事の手伝いをさせて貰え、まるで職業体験のようで楽しくもあった。


「それにしても、ここの町の子供達って、いろんな仕事をこなせて凄いですよね」

「大きくなったら家業を継ぐが、別の仕事をするか選べるように色々学ぶんです。それに他の人たちの仕事を知っていれば、その人に何かあって仕事ができない時に代わりに作業ができるでしょ?」

「なるほど」

 

 だから色々な仕事を手伝わせてもらえるのかと納得しながらも、ふと自分の将来について考えてしまった。子供たちは大きくなったら、得意な仕事に就くだろう。でも聖女である自分自身は、神に祈る以外の仕事がなく、誰かの仕事を手伝って暇を潰しているような状態。

 宙ぶらりんな環境は聖女にとって少し不安に思えた。


「あの、私にも他の仕事ないですか?」

「聖女様は十分お仕事をされていますよ」

「あの、神への祈り以外にです。それ以外で役に立てることって今は子供達と一緒にお手伝いすることしかないですし」

「……無理して仕事をする必要はありませんよ? 聖女様の祈りの力はかなり体力を使うと聞きます。祈りの時以外は、ゆっくり家で過ごして頂いてもいいくらいなんですよ。手持ちぶたさであれば、刺繍や縫い物、木工道具でもなんでも用意しますよ」

「はい……ありがとうございます」


 クロードウィックに優しく言われ、なんだか申し訳ない気持ちが湧き上がり、聖女はそれ以上要求することができなかった。

 ふと、人攫いの男が言っていた言葉がよぎった。


”このような辺鄙な場所に閉じ込めていたなんて”


 閉じ込められているわけではない、この町の中で自由に過ごしているし少しずつ、この世界の常識を学んでいるのだから。そう思うたびに、どこか心の中にぽっかりと空いたような感じがするのだ。


(何か大切なことを忘れてる気がする)


「おやすみなさい、聖女様」

「おやすみなさい、クロードウィックさん」


 寝る前の挨拶をするとき、ほんの少し不安そうな顔をクロードウィックが悪い人とは思えない、と聖女は思いながら、もしかして贅沢な悩みだったろうかと自問自答しながら眠りについた。



 次の日、クロードウィックは少し大きな町に出かけるため、朝食もそこそこに外套を羽織り、馬上の人になった。

「それでは行ってきます」

「行ってらっしゃい、気をつけてくださいね」

「はい。あ、聖女様に何かお土産を買ってきますね」

「お土産?」

「楽しみにしていてください」


 そういうと馬を駆ってでてしまった。町の道を駆け降りて行くと途中護衛らしき男性たちがクロードウィックについて行くのが見えた。


「あの人たちは護衛ですか?」


 一緒に見送っていた侍女の一人、ゲニラに尋ねると頷いた。


「はい、旦那様は四六時中警護されるのが苦手なので、町に出る時にしか護衛をつけないんですよ」

「そうなんですね……。普段彼らは何をしているんですか?」

「護衛たちですか? 町の警備です。魔物が出たりしたら彼らが退治しますから、安心してください」


 そういうと、ゲニラは屋敷の中に戻って行った。


「四六時中警護されるのが苦手? そうだったっけ? 苦手なのは……」


(だれだったっけ?)

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