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泥水の蓮  作者: siro
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6 精霊

「***! こっちよ」


 美しい長髪が風に靡いてキラキラと輝いていた、その女性はドレスをはためかせ、目の前をかけていく。楽しげな声が草原に響いていくなか、頭上を突風とともに龍が泳いでいった。


「精霊が通ったわ!」

「あれも精霊なの?! どう見ても龍なんだけど!」

「りゅう? ***の世界ではりゅうっていうのね! 私たちの世界では風の精霊王よ」

「精霊王?!」


 優雅に空を泳いでいく龍を目で追いかけながら、本当に異世界なのだと思った。


「やっぱり聖女って違うのね! 精霊が見れる人って少ないのよ」

「そうなんだ……なんか変な感じだよ。他の人には、ほとんど見えてないんだよね?」

「うん。でも子供達は結構見えているわよ。大人達に聞くと、子供の時は見えていたって」

「じゃー***はまだ子供ってこと?」

「まぁ! 私はもう大人よー!」

「あははは! ごめんごめん!」


 ちょっとからかったら、彼女は拗ねてしまった。その姿がなんだか可愛くって笑えばますますへそを曲げてしまい、先に進んでしまった。


「ごめーん! ***!! 貴方も神力があるってことでしょ!」

「……まぁ、我が家も王家の血が少し流れてるからね。聖女に宿る神力が少しあるかも」

「そのおかげで、私は気がおかしくなってないってわかったし」

「ふふふ、そうね。大人でも精霊が見える人はいるけど、大っぴらに言わないから。だからこそ、知る人ぞ知る、美しい精霊もいるのよ!」

「楽しみ〜!」


 二人で仲良く腕を組んで向かったのは大きな洞窟の中、不思議な光苔の先にあったのは光る泉だった。


「わぁ!!」

「ここ、精霊が見える人じゃないと辿り着けない洞窟なの」

「そうなの?」

「えぇ、深淵の森の聖域と同じで、見える人にしか道がわからないようになっているのよ」

「そうなんだ!」


 淡く光洞窟内は神秘的で美しかった。青白い夜空のような光が洞窟の中に広がっているのだ。

 泉のなかに魚がいるらしく、時折跳ねる音が聞こえる。


「この世界にはこう言った場所がいくつかあるから、もしも魔物に襲われたら逃げ込むといいわ」

「魔物も迷子になるの?」

「えぇ。だって魔物は聖なる光が嫌いですもの」

「たしかに、でも近くにあるとは限らないでしょ?」

「大丈夫よ。危ない時は、光が導いてくれるのよ」

「へーー! 光が導くか〜」


 なんか素敵だな、と思っていると大きな水音が聞こえ振り返るとそこには宝石の目をした人魚がいた。


「人魚?!」

「ほら! 美しい精霊でしょ!」

「精霊!!」


 人魚も精霊なのかと驚いてしまったが、確かに鱗も宝石のように煌めいて美しかった。


「こ、こんにちは」


 おずおずと声をかけると、人魚の形をした精霊はにっこりと微笑んで、また水の中に入ってしまった。覗き込めば、薄暗い水の中で精霊が淡く光って幻想的で、思わず目で追いかけてしまう。


「綺麗〜」


 思わず手を差し伸べると、ざぁーという激しい雨の音が聞こえ、顔を上げた。


「雨?」


 自分の声と豪雨の音で目が覚めた。

 先ほどの薄暗い洞窟と同じように薄暗い部屋の中。


「あれ? 夢だったの? 不思議な夢だったなぁ……綺麗な人だったなぁ……」


 モゾモゾと起き上がって窓の外を見ると、外は真っ暗で雨粒が歪んだ窓ガラスにぶつかって不快な音をさせていた。


「雨かー昨日は晴れてたのにー。ランプランプ」


 部屋に用意されているランプに火を灯し、湿気っているせいでなかなかつかなかったが、部屋が明るくなったら着替えて居間へと向かった。

 居間にはクロードウィックが暖炉に火をつけている最中だった。


「あ、おはようございます」

「おはようございます。聖女様」

「暖炉に火をつけるんですか?」

「えぇ、今日は雨が止みそうにないですからね、このままだと冷えていくので」

「へー」


 確かに、少し肌寒さを感じて聖女は腕をさすった。小さな火が噴きこで大きくなっていくと、薄暗かった部屋がほんのりと明るくなり、柔らかな暖かさも広がった。


「暖かい」


 二人で暖炉の火で温まっていると、カゴを持ったエルケが少し濡れた姿で部屋に入ってきた。


「あらあら、こちらにいらしたんですね」

「おはよう、エルケ」

「おはようございます、エルケさん」

「おはようございます。暖炉に火をつけてくださったんですね」

「あぁ、今日は冷えそうだからな。エルケも温まるといい」

「ありがとうございます」

「おはようございます。旦那様、皆様」

「執事さん! おはようございます」

「イーノおはよう」

「おはようございます」


 執事のイーノもやってきて、部屋の壁につけられたランプに火をつけていくと出て行ってしまった。


「イーノさんも温まっていけばいいのに」

「仕事が終わればくるさ。エルケ、外はどうだった?」

「いやー思ってた以上に雨足は強いですよ〜。パンを貰いに行ってきましたが、湿気ってしまいましたわ」


 そう言いながら、パンを乾かすために、暖炉の前にパンが入ったカゴを置いた。


「そうか、弱くなる様子はあるか?」

「イーノ爺が言うには、これからもっと雨足は強くなるようですよ」

「……強くなるか、精霊が喧嘩しているのかも知らないな」

「精霊が喧嘩すると雨が強くなるんですか?」


 聖女が聞くと、二人は頷いた。


「あぁ、聖女様がいるのにこんな大雨が降る時は、精霊が喧嘩している時なんだ。風と水の精霊が時々喧嘩をするんです」

「でも、普通の人は精霊が見えないですよね?」

「見えなくてもわかる時があるんですよ〜。空の雨雲がぐるぐると渦巻くんです」


 エルケが楽しそうに指先でぐるぐる回す仕草をした。

 クロードウィックは思いついたように告げた。


「そうだ。聖女様なら、見えるかもしれませんよ」

「見えるんですか?」

「少し外を見てみましょう」


 クロードウィックに誘われ、雨用のコートを羽織り裏口から外を覗いてみた。外は暴風となって一瞬冷たい風に体が持っていかれそうになった。


「あっ」


 クロードゥイックがすかさず聖女を抱き寄せた。

 

「危ないので、このまま行きますね」

「あ、はい」


 力強い腕の中は、強雨の風でもびくともせずに外に出れた。触れ合っている場所は暖かく、聖女はちょっと気まずかった。


(クロードウィックさんってかっこよくて見た目細いけど、結構男性らしく腕も胸も筋肉質すぎるー!)


「聖女様、彼方の空が渦巻いてますね」 


 クロードウィックが指差した方の空は、白と黒の雲がぐるぐると渦巻いていた。時折、薄い幕のような何か雲の隙間から見えた。


「白と黒い雲が渦巻いてます?」

「そうです、風の精霊と水の精霊は……あれは山水の精霊ですね」

「山水?」

「えぇ、蛇の姿に似ているんですよ。あれは、止めないと被害が出るな」


 蛇と言われて、聖女は時折見えるものが蛇の体だと気づいた。


「止めることってできるんですか?!」

「正確には、精霊の気を逸らすんですけどね」

「逸らす……」


 ビューッと強い風が吹き、思わずクロードウィックにしがみついた。風が吹き荒れ、髪の毛がボサボサになるほど。


「ひゃーー!!」

「そろそろ室内に戻りましょう」


 聖女がしがみつきながら頷くと、クロードウィックに支えられながら家の中に戻った。


「す、すごい風だった」

「あらあら、髪の毛がびしゃびしゃですよ。聖女様も旦那様も早く拭かないと風邪を引いてしまいますよ」


 エルケが慌ててタオルを2枚持ってきた。聖女とクロードウィックはコートを脱いで、濡れた髪をタオルで拭いながら、居間に戻ると食卓の上には朝食が用意されていた。


「朝食ができてますからお召し上がりくださいね」

「わぁ〜! 今日も美味しそう!」

「あぁ、ありがとう。エルケ、すまないが外出するからランチように何かつまめる物を作ってくれないか。それとイーノにも伝えてくれ」

「承知いたしました」


 クロードウィックの言葉に驚いて聖女は振り返った。


「え、この雨の中外出するんですか?」

「あぁ、聖女様は危ないから今日は1日家にいてくださいね」

「でもクロードウィックさんは」

「私は慣れているので、それに精霊は少し見えるんですよ」

「そうなんですか!」

「はい」


 朝食を食べながら精霊について話を聞けば、その土地に住まう精霊はいろんな姿をしていて、その土地の動物に似ているものもいれば、全く似ていないものもいるとか。

 今空を荒らしているのは、長年生きている風の大精霊と、山水の精霊だとか。


「水系の精霊はなぜか風の大精霊に毎回ちょっかいをかけるんですよ。むかし海の精霊がちょっかいをかけすぎて、海が大荒れする現場に居合わせたことがありました」

「えぇー!!」

「ふふふ、あの時……どうやら水の精霊は風の大精霊に構ってほしいらしいですよ」

「構ってほしい?」

「えぇ、長く生きていて、しかもいつも空をゆったりと泳いでいるので見つけたら、必ず声をかけてるんでしょうね」

「声が聞こえるんですか?」

「いいえ、私たち人間には精霊の声は聞こえないんですが、なんといいますか雰囲気がそうなんです。地上から水の精霊が顔をだして、それに風の大精霊が鷹揚に応えることもあれば、気づかずに通り過ぎる感じがあるんです」

「へー。そういえば、気をそらせるっておっしゃってましたよね。どうやってするんですか?」

「精霊石を投げるんです」

「精霊石?」

「えぇ、精霊石は精霊が大好きな石でして、それに気を逸らしている間に風の大精霊がどっかに移動するので」

「わー」


 なんとなく、大型犬に絡みにいった小型犬におもちゃをあたえて気をすらす姿を想像してしまった。


「旦那様、油紙にサンドイッチを包みました」


 エルケはサンドイッチと水筒を鞄に詰めて持ってきた。その後ろには執事のイーノがコートを抱えて待っていた。


「ありがとう。それでは、聖女様。いってきます」

「はい、いってらっしゃいませ、気をつけてくださいね」

「はい」


 クロードウィックは嬉しそうに返事をすると、また雨用のコートを羽織り外に出て行ってしまった。

 扉を開けた瞬間、風の音がすごい勢いで家の中を駆け巡った。


「すごい風ですね」

「えぇ、たった一瞬で玄関がびしゃびしゃですよ」

「本当だ」


 床が一瞬で濡れてしまっていた。三人で床掃除をして、居間にもどってくるも。


「手持ちぶたさです〜」

「そうですねー。イーノ爺は何をするんですか?」

「私は、在庫の確認と見回りですね」

「なるほど、私は厨房の掃除かしら。そうすると聖女様は……」

「掃除なら!」

「「んー」」


 どうやらダメらしい。二人が悩んでいるとイーノが思いついた。


「そうだ、今日のお祈りはできておりませんでしょう。この家の中にも神の像があるんですよ。とても簡易ですが、そこでお祈りをお願いできますか?」

「はい!」

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