13 ギオス視点
「うへぇーあまずっぺー」
ギオスは、茂みに隠れながら二人のやりとりを聞いていた。
最初はクロードウィックが聖女を監禁しているのかと思ったが、どうやら違う様子。しかも周りを退役兵士や、昔聖女に支えていた女騎士で固めているところを見ると、本当に守っているようだが。
「極端なんだよなー」
もう少し二人の様子を伺っていたかったが、こちらに向かってくる気配を感じギオスは急いでその場から離れた。
崖を伝い、林に入ってから外から町に戻れば、すぐに住民が話しかけてきた。
「おや、旅人さん。こんな朝早くからお出かけで?」
「えぇ! ここは自然豊かで魔獣もでないでしょ? 思わず町の外を散策しちゃいましたよー!」
「そうでしたか。そうだ朝食は済ませましたか?」
「いいえ、まだなんですよー」
「ならちょうどいい、美味しいお店紹介しますよ」
そう言いながら、ギオスとさりげなく並んで歩き始めた。
「それはありがたい」
(こりゃー監視がついたな。これ以上聖女様に接触するのは難しいかもなー。さすが4年で魔獣の巣穴という巣穴を潰しただけあるわ)
「やっぱり公爵領が一番平和ですね。現当主である、クロードウィック様が率いた魔獣討伐部隊の話を聞いて、公爵家がある街に行ったんですが、王家から授与された討伐隊の紋章が時計塔に飾られててカッコよかったんですよ。ご覧になられたことはありますか?!」
「えぇ……行商に行った際に観に行きましたよ。そうでしたか、では公爵領は結構周られたのですかな?」
「いやいや、半分も回っていないです。激しい戦いのあった、山岩の岩場って言われている場所に行きましたが、今は追悼の塔と結界石が置かれていましたが、すべて公爵様が手配されたと聞いて、すごいお方ですね」
「えぇ、公爵様は……神のお告げを受け全うされたのですよ」
「神のお告げ……そうでしたか」
ギオスはにっこりと笑みを浮かべながら、知らない情報だと心の中でメモをした。
勇者という制度がこの国にはあるのだが、クロードウィックが準勇者の称号を得ていることは有名だ、聖女がいなくなり、家族が亡くなってから親族を黙らせるためか試練の聖域に入り戻ってきたのだ。
試練の聖域の3箇所を生きて帰って来れたものが勇者として名乗れるのだが一つでもクリアすれば準勇者の称号を得ることが出来る。
大昔は3箇所全て回るものがいたらしいが今や1箇所制覇した時点でやめてしまう、試練の内容は誰も口にせず、時には暫くして精神を煩うものもいるというのは余談だ。
神のお告げがあったというのはギオスが知らない情報だった。本来であれば大々的に発表されるはず。それなのに、発表されずに魔獣討伐を行なっていたとなると、王家も一枚噛んでいるとギオスは考えた。
「ついたついた。ここの朝食が美味しいだよ」
話しかけられ、ギオスは笑顔でお礼を言いながら店内に入った。やはり住民の男も朝食を食べるらしく、ギオスの横に座り一緒い注文をし始めた。
「ここにきたら、絶対これを食べたほうがいい」
「そうなんですねー」
朝食は、新鮮な牛乳と焼きたてのパンに卵とサラダというシンプルながらも美味しく、満足のいく味だった。こんな辺鄙な場所でここまで美味しいものが提供されるというのは、やはり聖女様がいるおかげだろう。
「あー美味しかった」
「それはよかった。このあとはどうするんだい?」
「そうだなー詩でも考えようかと思ってて、何かいいネタありません? 一応吟遊詩人もやってるんですよ」
「お兄さんそんなこともしてるのか!」
「えぇ! 旅の路銀稼ぎには良いですよ」
「残念だが、この町で歌になるような出来ごとはないよ」
「そりゃー残念。恋愛ものとかあれば」
「ないない」
「あははは、そうでしたか、じゃーそこらへんぶらついてみますわ」
ギオスは笑いながら、一回宿に戻り、小さなラウテという弦楽器を持って町の中を歩き始めた。微かに感じる視線は、監視役の者たちだろう。
「悲劇の公爵家の歌なんて歌ったらボコボコにされそうだな」
ギオスはそう呟きながら、町の奥にある屋敷を見上げた。屋敷に向かう道のりには、住民が道に机を出してチェスに興じていたり、屋根の修理をしていたりと、正面から向かえば誰かしらの視線に入るようになっていた。
「守りは完璧って感じだな……」
ちょうどいい切り株を見つけ、腰をかけるとラウテの弦を指で弾いた。小気味良い音がポロロロンと鳴り響く。王都で流行りの歌を口ずさみながら、どうやって次は聖女と接触するか考えた。
雇い主は聖女を欲しがっていた。いや、貴族たちは皆聖女が欲しいだろう。王家も本音では、欲しいだろうが神の怒りもあったため、今回動きがない様子だった。
「聖女がいるだけで魔獣の心配はなくなるっていいよなー」
暫く弾いていると、子供達の声が聞こえてきた。どうやらラウテの音に惹かれてきたようだった。
「あ! 昨日のおじさんだ!」
「まだおじさんじゃないよ! お兄さんだ!」
「あははは! お兄さん何弾いてるの?」
「王都で流行っている曲だよ」
「「へーー!」」
今度は子供を監視においたのかな、とギオスは思いながら子供達にいくつか曲を披露すると宿に戻った。
「さて、どうしたもんか。番犬を相手にするのは厳しいが……聖女様が出てきてくれるとありがたいんだが」
窓を開けて外を見れば、一見すると普通の町だが、ギオスにとっては観たことのある顔ぶればかりだった。聖女の護衛をしていたものや、ツェツィーリアの侍女だったものやクロードウィックの護衛がいるのだ。
幸い、下っ端の兵として混ざっていたギオスの顔を覚えてるものはおらず、正体がバレていない様子。
「のどかだなぁー」
長閑な楽園。
聖女のために作られた町。
「……重いねぇ」




