「ナイト•フェイク•ヒューマン」
「お前、何なんだよ!何故俺達夜の住人を狩り続ける!?」血塗れになった男が人気の無い路地に倒れ込む、腹部には銃で撃たれた傷がありそこからドクドクと血が流れ出していた。
「何故かって?しいて言えば金だな」
「ふざけ、、、」男が言いかける前に俺は銃で頭を吹き飛ばした。
「相変わらず派手にやってるね、でも大丈夫?貴方みたいな唯のヒューマンがこんな事して」
その言葉と共に路地の暗がりから一人の女が姿を現す。
「あんたはこいつらの死体が手に入れば良いんだろう?今仕留めたばっかりだし300ドルは欲しいね。」
「唯のヒューマンが調子に乗るなよ?200なら出すどうだい?」女が金色の瞳で見つめてくる。
「なら、足りない分は俺と飲みに行くってのはどうだ?」俺は軽口を飛ばす。
「相変わらず君は面白いね、分かったよそれでいいよ飲みに行くのはまた今度ね」女はそう言うと胸の谷間から200ドル出して渡す。
「相変わらずどこに閉まってるんだよ」
「おや?君もしかしてまだ童貞かい?」
「まだ、16だからな最初は綺麗なお姉ちゃんに相手してもらいたいね」俺が冗談を言うと。
「それなら今度私が相手してあげようか?」女が服を横に引っ張り胸元を見せながら言った。
「遠慮しとくよ、流石にこの街の顔に相手してもらうのは贅沢だからな」
「そうかい、気が向いたら何時でも来なよ私が教えてあげるから」俺は後ろ向きに手を上げながら家路についた。
俺達の世界は昼は人間の時間、夜は闇の住人達の時間と分けられていた。
夜の住人と言うのは一言で言うと化物達だ、狼男やヴァンパイア、それに人魚やグレムリン何でもあれだ、夜になると俺達人間は家に閉じ籠もる、でないと外の化物達の餌になるのだ。
逆に言うと昼は人間の時間であり化物達は昼の間巣に籠もっているのだ。お互いが干渉しない事によりこの社会は秩序が保たれているのだ。
だが、俺はその秩序に反する仕事をしていたそれが闇の住人を狩る仕事だった。
理由は簡単普通の仕事より稼げるからだ、それでも表向きは真面目な青年を装って生活しており今の今までバレては居なかった。
「今日も疲れたな。」俺は仕事道具をテーブルに置くとベッドへとダイブした。
この仕事を初めて2年俺は最初の仕事を思い出した。
2年前俺は興味本位で親の言いつけを破り夜に外に出た。夜の世界は昼とは違い闇の中に光が灯りとても美しかった。
その光の中で今まで見たことも無い異形の化物達が生活を送っていた。2足歩行で歩く狼、緑色で小さなイタズラ好きの奇妙な生き物。そしてとても美しいが肌が死人の様に白く口には牙がある若いカップル。
夜の住人達は姿こそ違えど俺達人間と変わらない営みを送っていた。
「お前人間か?」その言葉を聴き振り代えるとそこには黒い羽と尻尾そして角の生えた化物が居た。
「初めまして!俺はケヴィンよろしく!」手を差し出したが目の前の化物は吐き捨てた。
「お前馬鹿か!?お前らヒューマンが俺達と対等だと思っているのか?いいか無垢な坊や俺がお前らの立場を教えてやるよ」化物は不敵に笑って言った。
「お前等は俺達の餌でしか無いんだよ!」
その言葉を聴き俺は暗い路地に走って逃げた。だが化物は俺を嘲笑いながら翼を羽ばたきながら追って来た。
「もう逃げられないぜ坊や?」俺は路地の行き止まりで化物に追い詰められていた。
「近寄るな!俺はお前に何もしていないじゃないか!」
「ああそうさお前さんは何もしちゃいない、だがな俺はデーモンでお前さんはヒューマン唯それだけの理由さ」化物は鉤爪で僕を切り裂く。
「痛い!何だよこれ!」俺は血塗れになった腕を見つめた、赤い血が溢れ出していた。
「お前の味は、美味えな!人間なんて初めて食うが今まで食って来た中で最高の味だぜ!」化物が興奮して言った。
「それじゃあ、頭から頂くか!じゃあなヒューマン、俺が美味しく頂いて糞としてケツから出してやるからな!」化物が俺の頭を掴んだ瞬間、ドン!と言う音が響き渡る。
「お前、何でそれを!」化物はその言葉を最後に倒れた。俺は手に持った銃を見たその銃はもしもの為に護身用として持って来たものだった。
「助かった、」俺は化物の死体を目の前に倒れ込んだ。
「君やるね、まだ子供なのに」暗がりから声がして俺は銃を構えた。
「そんな物騒な物は閉まってよ、私は君と商談をしたいんだ」そう言うと暗がりから際どい服を着た女が現れた。彼女は肌が白く髪は黒髪であり瞳の色は満月の様な美しい金色だった。
「商談?何を売買するんだ?」
「君の目の前にあるそれだよ」彼女は俺が殺した化物の死体を指差す。
「これを?良いけどいくらで買ってくれるんだ?」
「そうだね、デーモンは滅多に手に入らないから500ドルでどうだい?」
俺はその額を聞き驚いた。
「500ドル!?そんな大金で買ってくれるの!?」
「そんな反応をされるなんて君は可愛いな」彼女が俺に近づきながら言った。
「俺は美味くないぜ?」
「大丈夫だよ、私はヒューマンの肉よりも化物共の肉が好きなのさ」彼女が笑みを浮かべて言った。
「じゃあ商談成立だその額で売るよ」俺は彼女に言った。「毎度あり、じゃあ代金を払おうか」彼女はそう言うと胸の谷間から現金を取り出す、渡された現金は何故か冷たかった。
「そしてこれは私からの個人的なご褒美さ」彼女はそう言うと俺の顔を掴むと口付けを交わした。
その口付けは彼女の舌を介して彼女の甘い唾液が入って来た。
「いきなりなにんすんだよ!」俺が口を拭いながら言った。
「ふふ、初めてだったかな?可愛いねでも君の腕をみてご覧」俺はそう言われ自分の腕を見た。すると腕の傷が塞がり治っていた。
「なんだこれ!どうなってんだ?」
「私の体液には傷を治す作用があるのさ」
「でもキスする必要なんてあったのかよ?」
「それは私がしたいからしただけだよ」
「そんな理由で俺のファーストキス奪われたのかよ」
俺は一人で嘆いた。
「その件はご馳走様、お詫びにこれからも化物を殺したら私が買い取るよ。これ私の名刺ね」彼女は黒いカードを渡す。
「フリーク•ミート•カンパニー?それにCEOのシンディ•フォージャー?」
「それが私の会社の名前さ、化物だけじゃなくヒューマンにも卸しているからね」
「それじゃあまた頼むよ坊や」そう言うとシンディは化物の死体を引き釣りながら闇に消えていった。
「あれから2年経ったのか、金の方も貯まってきたしそろそろ潮時かな」俺は天井を見ながら考えていた。
昼になると俺は学校に行き普通に授業を受けて、帰ってきては夜になるまで眠り夜になると化物を狩りに外に出る、たが俺は次第に夜の住人として生きていいきたい願望が出てきていた。
「今日もご苦労さん、今日の獲物はトカゲ男かこれなら皮も含めて300ドルだね」今日も化物を殺してシンディが買い付けに来ていた。
「あのさ、ちょっと頼みがあるんだけど」
「珍しいねなんだい?」
「俺、人間辞めてあんた達と同じ化物になりたいんだ」俺は勇気を出してシンディに言って見た。
「君は何時も私の予想を上回ってくるね、理由を聞いてもいいかい?」シンディはタバコに火を付けながら聞いた。
「夜を知る前の俺は、昼の世界では学校に通って友達と他愛ない話をしたり、両親と束の間の団欒を過ごしていてとても満たされた気分でいた。けどあんたと会ったあの日俺は夜の世界の美しさと凶暴な一面を見て俺の世界は広がって言ったんだ。」
「だから俺はもうあの時の昼の世界しか知らない、俺には戻れないんだ。だから俺をあんた達の仲間にいれてくれ!」俺はシンディに思いの丈を打ち明けた。
「君の気持ちは分かったよ、でもこっちの世界に足を踏み入れたら君は二度と太陽の下を歩く事は出来ないよ?」シンディは静かにだが鋭く真剣な声で言った。
「それでも構わない、今までの俺は偽物だったんだ。でも今はこの夜の世界を知って本当の俺の気持ちに気付けたんだ」
俺はシンディを真っ直ぐみて言った。
「だから改めて言う、俺は人間を辞めて化物になりたいんだ。」
「君の覚悟は本物の様だねそれじゃあ叶えてあげよう」シンディはそう言うと俺の首に噛み付いた。
俺はシンディに血を吸われながら意識が遠のいていった。
「やあ、起きたかい?」
次に目が覚めると俺の目の前にシンディの顔があった。
「俺生きているのか?」
「ヒューマンとしての君は死んだよ」
俺は自分の体温が冷たい事と肌が死人の様に白い事に気付いた。
「俺、化物になったのか?」
「君は私の眷属になったのさ」
シンディは立ち上がると歩き出す、俺は咄嗟に起き上がり彼女を追いかける。そして俺達二人は通りに出た。
その通りは夜の闇にも関わらず建物の明かりが灯り、ネオンの怪しい光が反射し、それに照らし出される怪物達の賑わいを盛り上げていた。
その情景はあの日俺が見た夜の街そのものだった。
「どうだい?生まれ変わって見る景色は」シンディが笑って言ってくる。
「昔のまんまだな、俺が憧れた夜の世界だ」俺がしみじみと呟くと。
「それじゃあ改めてようこそ!夜の世界へ」
シンディはそう言うと俺の手を引き街の喧騒へと連れ出してくれた。
「ナイト•フェイク•ヒューマン」
「完」
次回、「魔法使いは皆殺し」