「シスター✕シスター✕サディスティック」前編
朝を告げる聖歌隊のラッパが鳴り響く、荘厳な作りの廊下を一人の少年が駆けていく。
少年はある一室の前に立ち止まると恐る恐るドアをノックする。中からの返事が無いので少年は深呼吸して気持ちを整えドアノブをゆっくりと回す。
「失礼します」少年は小さな声で一室へと入った。
部屋の中は散らかっており脱ぎ捨てられた女性用の下着に、無造作に壁に掛けられた修道服、少年は目のやり場に気をつけながらベットに近付いて行った。
「シスター、シスター•ヨハンナ!」少年はベットに蹲る部屋の主を起こそうと揺らす。すると不機嫌そうなうめき声と共に少年の首目がけて手が伸びてきた。
「ぐ、アァ、、辞めてシスター、、、」少年は必死に首を鷲掴みにする手を引き離そうとする。
「駄目じゃないかランディ、私を起こす時はゆっくり優しくそれに私と二人の時はお姉ちゃんだろ?」
その言葉と共に気怠げな女がベットから起き上がる。
「ごめん、なさい、、お姉ちゃん」少年は顔を蒼白にさせながら言った。
「良く言えたね!偉いよランディそれじゃあおはようのキスをしてあげる」
少年の首から手が離され少年がむせて咳をしていたが、直ぐに女に抱き締められ濃厚なキスをされた。
「止めてよお姉ちゃん!神様が不純な行為は駄目だって言ってるでしょ!」少年が払い除けると女は笑みを浮かべて言った。
「大丈夫よ神様だって姉弟のスキンシップなら許してくれるはよ」
「でも、」少年が言うよりも早く女は構わず少年の唇を塞いだ。
「もう、毎朝止めてよね」ランディがウンザリ気に言う。
「そんな事言いながら毎朝嬉しいだろう?全くこれだから駄犬は」ヨハンナが嬉々として言う。
「それはそうとランディ君にプレゼントがあるんだ」
ヨハンナが散らかったゴミの中から箱を取り出した。
「これを僕に?何だか怖いんだけど」ランディが恐る恐るヨハンナの手から箱を受け取る。
「さあ開けてくれよ、君に絶対似合うから!」
やけにご機嫌のヨハンナの勢いに押されランディが静かに箱を開ける、すると突然箱から何かが飛び出しランディに飛び掛かる。
「うわぁ!何これ!?苦しい、、」
ランディの首には黒く禍々しいチョーカーが嵌っていた。
「緩め」ヨハンナの合図と共にランディの首を絞めていたチョーカーが緩む。
「ゲホ、ゲホ、な、何これ?」ランディが涎と嗚咽を出しながらヨハンナに言った。
「これは契約の首輪と言ってね、装着者は主の下僕になる素敵な首輪だよ」
「主?それってまさか」ランディの顔から血の気が引いていく。
「そうさこの場合私が君の主と言う事になるね、もうすぐ10歳になる君に私からの早めのプレゼントさ」
ヨハンナが冷たい笑みを浮かべながら言う。
「嫌だよ!外して!お願い!」ランディが必死にチョーカーを外そうと手を掛けた。
「ああ、言い忘れたけどそのチョーカーを無理やり外そうとするとね」
ヨハンナの警告も間に合わずランディがチョーカーに手を掛けた瞬間、全身に今まで味わったことの無い嫌悪感と激痛が走った。
「痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!助けて!誰か!助けて!」ランディは激痛の余り地面に倒れ込みひとしきり暴れていた。
「アハハハ!良いね!良いよランディ!君は本当に愚かで哀れな駄犬だね!だからこそ私は君が愛おしいよ、それでこそ私の愛する弟だ」
ヨハンナはひとしきり笑った後指を鳴らした。するとランディを蝕んでいた痛みと嫌悪感が収まった。
「さてと、お遊びは程々にして会議に出ようかな」
ヨハンナは洗面所の鏡を見ながら顔を洗い流し、ボサボサのブロンド髪を溶かした。そして寝間着を脱ぎ捨て修道服に着替えた。
「それじゃあ、行こうかなランディ起きなさい行くよ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、」ランディは床の上で蹲り1人呟いていた。
「起きないとまたイジメちゃうよ?」
その言葉を聞きランディが即座に起き上がる。
「震えてて可愛いよランディ、それじゃあ行こうか」
「分かったよシス、お姉ちゃん」
二人は部屋を出ると円卓へと向かった。
スベイン法国玉座の間この広間は普段戴冠式や来賓の王への謁見の間として使われるが、一度招集がかかれば部外者は一切出入り禁止の円卓と変わる。
代々スベイン法国では重大な政や会議にはこの円卓を使ってきた、そして今回招集が掛かり円卓会議が開かれる事となった。
「遅い!シスター•ヨハンナはまだか?」
広間の中央に置かれた長机の前に座る初老の男が痺れを切らす。
「まあ、まあ、今に始まった事じゃないんですから待ちましょうよ」向かいに座る青年が諭す。
「そうですよそれよりもあのアバズレ、可愛いランディ君に変な事していなければ良いけど。」
自分の黒く長い髪を弄りながら修道女が言った。
「すいません遅れました、私の愛しい愚弟が時間通りに来なくて」ランディを連れヨハンナが広間に現れた。
「ごめんなさい、僕が悪いんです」ランディが頭をペコペコ下げながら謝る。
「貴方は悪くないのよ全部その隣のアバズレのせいよね」修道女が円卓の席からランディに話掛ける。
「誰がアバズレだって!?口には気を付けろよ三下が!」
「テメエだよアバズレ!毎回毎回幼気な少年をかどわかしやがって!ランディ君そんなアバズレなんて捨てて私の所に来ない?優しいお姉ちゃんが甘やかしてあげるわよ?」修道女が優しくランディに語りかける。
「人の弟に色目使ってんじゃねえよ豚が!残念でしたこの子はもう私の従順な下僕になったよ」
ヨハンナがランディを抱き締めながらチョーカーを見せる。
「それってまさか、本当にイカれたアバズレね!実の弟を奴隷にするなんて!」修道女が身を乗り出す。
「殺るのか三下?」
「今日こそ決着付けるかアバズレ?」
二人が歩き出し懐から獲物を取り出そうとした瞬間。
「やめんか!神聖なる円卓で刃傷沙汰は許さんぞ!」
「はい、はい、分かりましたよ神父様」
「命拾いしたなアバズレ」二人は獲物を仕舞いながらそれぞれの席に着く。
「全くシスター•ヨハンナ遅刻だけでは飽き足らず反省の色が見えん、それにシスター•ヘルガ、君も争いになる言動は慎み給え」
神父の叱咤に二人は相槌を付く。
「来てくれただけマシじゃないですか残り4人は来てすらいませんから」
「本当に最近の若い者達は円卓会議をなんだと思っとるんだ」神父が溜息を付く。
「遅くなってすいません、まだ始まってないですよね?」また一人若いシスターが現れた。
「久しぶりアテナちゃん相変わらず幸薄そうだね」
ヨハンナが笑いながら話掛ける。
「お久しぶりですヨハンナさん!」アテナも笑顔で返す。
「アテナ来てくれて嬉しいよ、君のお陰で汚れた空気が浄化される」ヘルガがヨハンナに視線を送りながら皮肉る。
「ランディ、君が居ると空気が汚れるんだってさ」
「え、ごめんなさい」
ヨハンナがランディを膝に乗せ優しく抱き締め撫でる。
「あんたよアバズレ!ごめんねランディ君、君は悪く無いんだよ!」マリアが必死に弁明する。
「そうですよランディ君ヘルガさんは普段抜けてますけど優しい人ですよ?」
「え?貴方そんな風に思ってたの!?」アテナの言葉にヘルガが反応する。
「全くうちの女衆はどうしてこんなにギスギスしてるのかね」青年が溜息を吐く。
「そう言う風に我関せずって態度が一番ムカつくのよ!」
「死ね、、」
「控えめに卑怯で最低です」
「え?酷くない?それにサラッと死ねって言ったよね?」
息の合った3人の言葉に青年が傷付く。
「でも僕はアイザック牧師の事尊敬してますよ」
「君だけは僕の味方だよランディ君」
ランディの言葉にアイザックが立ち直る。
「これで全部か後3人程来ていないが会議を始める、がその前に猊下を呼んでくる」そう言って神父が立ち上がろうとしたが。
「いやぁ待たせたね皆それじゃあ始めようか」
王の私室から若い美丈夫が現れた。
「もう、猊下が遅刻なんて締まらないな」
「君が言うなシスター•ヨハンナ、猊下この者達に厳しく言ってください、最近たるんでいます」
「いやぁ私がそれを言える振る舞いが出来ていないからね、そこは上司であるロンメル神父に任せるよ」
「猊下、」王の言葉にロンメルが項垂れる。
「それじゃあ今回の議題だけど先に報告をお願いしようかな、来てるよねシスター•エリーゼ?」
王の言葉と共に王の影の中から銀髪の女が現れた。
「気付いていましたか、流石は我が主君ですね」
「シスター•エリーゼ!猊下の影に潜むなど無礼であろう!」ロンメルが激昂する。
「良いんだよロンメル神父、私が許可しているからね」王が宥めるとエリーゼがある物を取り出す。
「此度のビスカ連邦のアルディノ侵攻その結果がこれです。」エリーゼが小さな箱を開くと円卓の上に映像が映し出される。
「これは!?本当に人のなせる技か?」
映像には地形が真っ二つに割れ胴と首が離れたおびただしい死体が転がる紅く凄惨な景色が映し出されていた。
「この戦いでビスカが送った兵の数は約5万、そしてその士気をとって居たのが統一戦争の英雄雷槍のアトラス」エリーゼの説明を聞き沈黙が流れた。
「そしてそのアトラスも兵士5万も現アルディノ国女王ロゼッタ•バーン•ハートと1名の従者により葬られました。」
「あのビスカ連邦の英雄アトラスが年端もいかぬ小娘に負けただと!」ロンメルが机を叩く。
「そのアトラスって強いんですか?」アテナが静かに聞く。
「間違いなく実力で言えばビスカ連邦最強、それにロンメル神父に唯一傷を負わせたのもそいつだけだよ」
ヨハンナの説明にアテナが震える。
「奴が負けるはずが無い、奴の槍さばきは間違いなく天下一の腕前だった」そう語りながらロンメルは自身の顔に深く刻まれた傷を撫でる。
「それが現実に起こったんですよこれを見てください」
エリーゼが映像を進めるとそこには銀髪の可憐な少女が映し出された。少女は見上げる程の巨躯を誇り全身黄金のフルアーマーに身を包んだ男と対峙する。その姿を見てロンメルが口を開く。
「間違い無い、あれこそがアトラスだ私と唯一互角に渡り合った男だ!」
少女は目にも止まらぬ剣閃で斬りかかるがアトラスの槍さばきに阻まれる、そして今度はアトラスが稲妻が走るが如き速さで槍を突く。だが少女は全て紙一重で裁き多少の擦り傷で収めた。
一連の息も忘れる様な達人同士の戦いを見てアイザック牧師が口を開く。
「全く別次元だな目で追うのがやっとですよ」
「アイザック君あれが見えるのか?」ロンメル神父が驚愕する。
「まあ、薄っすらとはですが、他の皆さんはもっと良く見えてる見たいですよ」
その言葉を聞きロンメルが周囲を見ると、ある者は笑みを浮かべ、ある者は羨望の眼差しを向け、そしてある者は退屈そうに欠伸をする始末。それを見てロンメルは恐れと共に自分を超えうる才能達に希望を感じていた。
「そしてここからがこの惨劇をもたらした元凶です」
少女はアトラスを前にして自傷行為を行う。
「気でも狂ったか?」
「へぇ面白そうだね」
少女は自らの胸に刻まれた紋章目掛けて手で刺突する。そして彼女の心臓部から紅く禍々しい剣が現れた。
その剣が抜かれるのを見た瞬間全員に悪寒が走った。
「何だあのオーラは」
「寒気がします」
「近付きたくないはね」
「怖いのかいランディ?大丈夫よお姉ちゃんがいるからね」震えるランディを抱き締め誤魔化していたがヨハンナ自身も寒気が止まらないでいた。
「全てを切り裂け!ブラッディ•マリア!」
少女が言った後剣を横薙ぎした瞬間、一瞬時間が止まった感覚に陥り次の場面で地面、山、そして兵士達が切り裂かれていた。
「以上が報告になります」エリーゼの言葉と共に映像が消えた。
円卓にしばし沈黙が流れた、だがその沈黙を破る笑い声が響き渡った。
「猊下!?どうなされました?」ロンメルが慌てた様子で主君を見る。
「いやはやとても良いショーを見せてもらった、彼女とは仲良くなれそうだよ」王の素直な称賛に場の空気が緩む。
「ですが良いのですか?ビスカと我が国が裏で不可侵条約を結んでいたとバレればアルディノとの国交に亀裂が入りますよ?」アイザックの懸念にエリーゼが説明する。
「その点は問題ございません、すでにビスカに潜り込ませてある密偵により我々が関与した証拠は一切残っていません」
「相変わらず気が利くねエリーゼちゃん」
「本当何処かの誰かさんより有能ね」
ヘルガが再びヨハンナを皮肉る。
「また言われてるよランディ本当に君は駄目な子だね」
「やっぱり僕は要らない子なんですね」ランディが泣きそうな顔になる。
「だからお前に言ってるんだよアバズレ!ごめんねランディ君悪いのは全部そのアバズレなのよ」
「全く猊下の御前だと言うのに」ロンメルが頭を抱えるが等の王も二人の言い争いを楽しんでいた。
「二人共盛り上がってる所悪いんだけどさ、私の話を聞いてくれるかい?」王の静かな制止を受け入れ二人が黙る。
「二人が静かになった所で本題に入ろうか、実はビスカ連邦の敗北を受けて今や連邦内は混乱の渦に晒されているらしいんだ」王はエリーゼに再び説明を促す。
「その混乱に乗じて一部の過激派が我が国との国境付近で小競り合いを起こしているのです」エリーゼは説明をしながら地図を机に広げる。
「この国境沿いの街ハンゲルグ・エヴィンを巡りビスカに潜んでいた異教徒共と我らキリシタリア教の治安維持軍が衝突しているとの情報がはいりました。」
エリーゼは説明を終えると王の脇に引っ込む。
「ありがとうエリーゼ、さて諸君達に問いたい私の大事な領土と敬虔なる信徒達を危険に晒す異教徒共をどうするか?」王は冷静な態度だったが言葉の端々に僅かな怒りを滲ませていた。
「異教徒共は皆殺しにするべきでは?」アイザックが冷たく言い放つ。
「確かに私もアイザックに賛成だ、キリシタリア教典こそが国教であり神の御言葉だ異教徒共には地獄に堕ちてもらおう」ロンメルもアイザックにさんどうする。
「異端審問、火炙り、八つ裂き、魔女裁判!昔修道院で履修した拷問を持って浄化します!」アテナが二人に賛同する。
「シスター•ヨハンナとシスター•ヘルガはどうする?」王が沈黙したままの二人に問う。
「あの、すいません差し出がましいのですが僕からも良いですか?」二人よりも先に最年少であるランディが声を挙げる。
「構わないよランディ、是非とも君の意見を聴きたいね」王が優しく促す。
「僕はまだ外の世界の事や、異教徒と呼ばれる人達のことは良くわかりませんでもその人達にも恋人や兄弟、家族が居ると思うと僕達と何も変わらないと思うんです!だから無闇に殺生を行うのは良くないと思います」ランディの意見を聞き王が拍手を送る。
「勇敢で慈悲深く素晴らしい少年だねランディ、でもね一つだけ教えてあげるよ」王は笑みを絶やさないままランディに告げる。
「この国では国教であるキリシタリアを信仰する選ばれた人間だけが生きる事を許されるんだよ、つまり異教徒とは人間に非ず奴等は我が国を脅かす害虫でしか無いんだよだからこそ根絶やしにせねばならないんだ」王の揺るぎ無い考えを聞きランディが萎縮する。
「あの、出過ぎた真似をしてごめんなさい」
「良いんだよランディ、君はまだ子供だからこそ無知で純粋なんだ私はそんな純真無垢な君を愛そう」
王がランディを宥め終わると沈黙を貫いていた二人が話す。
「異教徒狩りですかやり方の指示はありますか?」
「特に無い思う存分暴れ給え」
「それじゃあ猊下、異教徒共は好きにして良いのですね?それこ祖老若男女問わず無茶苦茶に!」
ヨハンナが目をギラつかせながら問う。
「許そう、彼等は人では無いただの害虫だからね」
王は冷たい笑みを浮かべながら許可を出す。
「本当に見境無しねこれだからアバズレは」
「それじゃあ、お前はアテナちゃん見たいにお上品に異端審問でもするのか三下?お前の大好きな幼気な少年や少女全て好きにして良いんだぜ?」
ヨハンナの魅力的な話を聞きヘルガが王を見る。
王は静かに頷く。
「それなら話が変わってくるはねあんたもたまには良いことを言うのね」
「お前も乗り気か嫌いじゃないよそう言う所」
二人の意気投合する姿を見て皆の意見が一致する。
「それでは王である私から勅命を捧げようか、第23代スベイン法国、法王アレキサンダー•フライブルクの名の下に異教徒共との聖戦を開始する!我が直属の精鋭部隊クラージマン•ナイツに命ずる異教徒を根絶やしにせよ」今この円卓会議で聖戦の開始が可決した。
中編に続く。




