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『婚約破棄馬鹿王子』って婚約破棄した馬鹿な王子なら良いってもんしゃないんですよ?

作者: 騎士ランチ

 俺は受付のバイト。三時間で二万円という破格の時給につられて、卒業パーティの受付をする事になったのだが、ちょっと面倒な事になっている。


「うぬは何故にこの王太子を中に入れぬのだ!」


 その理由がこの人。俺は今、世紀末覇王コスプレをしている王太子が勝手に会場に入らない様に足止めしていた。


「答えよ!答えぬならば無抵抗であっても、この王太子は容赦はせぬ!」

「あー、あのですね。今日は卒業パーティですよね?ですから、婚約破棄馬鹿王子のコーデでない男性はお通し出来ないのです」

「この我の格好は、婚約破棄をした馬鹿な王子そのものではないか!」


 それは合っている。王太子のコスプレ元になったキャラは同盟国宰相の娘と婚約していたが、弟王子の婚約者に横恋慕し、宰相の娘とは婚約破棄して弟の婚約者を力づくで奪い、その後弟に拳で分からせられ死んだという、各要素だけ見たら婚約破棄馬鹿王子を十分に満たした存在だ。おまけに、そのキャラのやらかしで国が5個ぐらい傾いている。ならば、婚約破棄馬鹿王子扱いで良くね?と思うかも知れないが良くないのだ。


「殿下、殿下のその衣装の元ネタの人は、最後の戦いと死に際が武人の鏡すぎるのです。婚約破棄ざまぁされるキャラというものは、婚約破棄ざまぁ以外の強い属性があったら駄目なのです。武人という属性は、ざまぁ属性を容易く上書きしてしまうのです」

「ぬうっ、ならば第二候補として用意しておいたこの衣装もか?」


 王太子が持ってきていた予備の衣装は、コロニー公国の第三王子の衣装だった。彼が辺境伯の長女と婚約破棄した結果、地球にコロニーが余計に落とされる事になったし、それが無くても彼の手でコロニー何個も落としてるし、虐殺スコアだけで言ったら作品内どころか全シリーズでトップ候補というとんでもないやらかしをしているのだが、同じ理由でアウトだった。


「そっちも、死に際が武人だったから駄目です」

「ならばさらば、また会おう!」


 ものごっつデカい馬に乗って去っていった王太子は、十分後に七三分けのグラサン姿で帰ってきた。


「ハッハッハ、最高の衣装とは思わんかね?見よ、私の婚約者は他人を階段から突き落とすゴミのようだ!」

「殿下、その格好も婚約破棄王子とは認められません」

「いいだろう。答えを聞こう。三分間待ってやる」


 殿下の今回の衣装は、天空に君臨した国家の末裔の格好だ。王族の分家に当たる彼は本家の血を引く少女を強引に妻として王国を復活させようとするが、少女の彼氏が現れて国と共に滅ぼされてしまう。王子要素や婚約破棄要素は最初の衣装には及ばないが、武人では無いしキッチリざまぁもされている。だが、これも駄目だ。


「殿下、悪役令嬢ものに出てくるスパダリってどんな奴でしたっけ?」

「年上の腹黒で半端ねえ力を持った奴だな」

「つまり、今の殿下とモロ被りなんですよ。着替えて下さい」

「へあ〜、目がぁ!婚約破棄の目がぁ」


 両目を抑えてすごすごと去る王太子。その後、キッカリ十五分で額に肉と書いたモヒカン頭で戻って来た。


「婚約者と屁の突っ張りはいらんですよ!」

「殿下?その人、婚約破棄してましたっけ?」

「私は旧アニメ版じゃーい!」


 ああ、そうだった。旧アニメでは最後の戦いに勝利してから、婚約者をライバルに譲り、保母しゃんと結婚したんだった。んー、この格好ならいいかな…あー、やっぱ駄目だ。


「殿下、その衣装の元ネタは確かに王子ですし、旧アニメでは婚約破棄した事になります。そして、その婚約破棄までの過程で行ったある出来事は、今思うと凄いやらかしとなります」

「そうじゃろそうじゃろ!」

「ですが、その過程について詳しく語ると、今やってるアニメのネタバレになるのでお帰り下さい」

「おわーっ!」


 新アニメが始まってなければ、あの衣装でも良かったのだが、始まったならばご遠慮願うしか無い。王太子は屁をこきながら空を飛んで帰って行った。しかし、いくら待っても戻って来なかった。


「婚約破棄を諦めたのかな?」


 もうすぐ卒業パーティが始まる。婚約破棄馬鹿王子の衣装が見つからず諦めたのかと思ったその時、学生服を来た黒髪の青年が中に入ろうとした。


「殿下、ストップ。一般生徒のフリして中に入ろうとしても無駄ですよ」

「くそっ、バレたか」

「何度も言いますが、ここを通るには婚約破棄馬鹿王子の条件を満たして貰わないと…あ、ちょっとお待ち下さい」


 俺は応対マニュアルを開き、殿下の今の姿と婚約破棄馬鹿王子キャラ一覧のページを見比べる。


「殿下、今のお姿なら入っで問題ないです」

「いや、何で!?入れるのは嬉しいけど、王子でも婚約破棄でもないし、多分そんなに馬鹿でもないぞ!」

「例え王子とかで無くても、見た目がナイスボートだからオッケーです。ほら」


 俺は婚約破棄馬鹿王子判別ページを開き、王太子に見せつけた。


【婚約破棄馬鹿王子に分類してよいもの】

・ナイスボート

・ウッディ

・ダーリンだっちゃ

【婚約破棄馬鹿王子に分類できないもの】

・世紀末覇王

・金曜ロードショー常連

・炎の逆転ファイター


「何で婚約破棄馬鹿王子の字面をなぞった方が、婚約破棄馬鹿王子の適正低くなるんだよ!?」

「さあ?俺に言われても、ただのバイトなので」


 その後、王太子は無事に婚約破棄を果たし刺されて死んだそうな。めでたしめでたし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 回答ありがとうございます。 スッキリしました。 『ダーリンだっちゃ』は元ネタに1話でも触れていればピンときますが、『ナイスボート』と『ウッディ』は元ネタ作中には出てないし、こちらの作品内で…
[良い点] 面白かったです。 バイトくんの怒涛の説明に笑わせていただきました。 たしかにどれも「王子」ですね。 盲点を突かれました。 みんな、年齢高めですよね。 [一言] ただ、肝心の「ナイスボート…
[良い点] 王太子乙…ほんと乙… というかモヒカン王子にそんな大人の事情が発生していたとは…
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