74話 シャーリー
◆ ◆ ◇ ◇ シャーリー
婚約解消をしてからわたしは人間不信になって屋敷に引き篭もっていたの。
だけど、コスナー領で何度か誘われて仕方なく参加したパーティーで知り合った低位貴族の男爵家や子爵家の子達と仲良くなった。
みんな多少奔放なところがあってそれなりに遊んで、だけどそれなりに真面目なところもあって、王都で仲良くしていた高位貴族の令嬢や令息とは全く考え方も遊びも違っていた。
王都では前もって相手と約束をしてからその約束の時間に訪れるのが常識なのに、こっちでは前触れなんて必要がなかった。
『明日もいつものところで来たい人は来てね。待ってるわ』
なんて気楽なんだろう。
もちろん正式なパーティーやお茶会、親も含めて屋敷に訪れる時はきちんと招待状もいるし前触れなく訪れることはしない。
これは令嬢や令息の中だけのイマドキの付き合い方。
堅苦しいのは親達の前だけ。自分たちの時は自由気ままにやろう。
そんな考え方がとても変わっていて、わたし自身もそんな考えに惹かれてそれが当たり前のように振る舞うようになった。
別に悪いことをしたわけではない。
ただみんなで集まって街でお茶をしたりピクニックに行ったり、劇を見に行く。
時には誰かの家でみんなでパーティーをしたりしたわ。
初めて心から許せる友人達が出来たの。
そしてそんなわたしが王都の両親に呼び出されることになった。どうしても外せない一年に一回の王宮での夜会がある。
さらにあまりにも遊んでばかりで心配をした両親が新しい婚約者を探そうとしている。
ま、確かに親ならこんなわたしのこと心配するわよね。
しっかり報告はいってたもの。でも悪いことをした訳ではないから叱られたことはない。
そしてその王都への護衛にリオがいた。
ーーーなんて美しい顔なのかしら?
第一印象は美丈夫で、でも何か影のあるところが興味を持ってしまった。
暇な時間に彼に話しかけると、ぎこちない笑顔で少しずつ自分のことを話した。
記憶がないこと。
村の人に助けてもらったが、無理やり村に縛りつけるために結婚されそうになり慌てて逃げ出したこと。
持っていた紋章とブローチから、自分は王立騎士団らしいとわかり、王都へ向かっていること。
ーーこれは我が家がリオを雇う時に身元確認をして行方不明になったバイザー家の息子だと確認は取れていたらしい。
そして長旅の間、彼の人となりを知りますます興味と好感が増えて、いつの間にか彼に惹かれていた。
ううん、欲しいと思ったの。
あと少しで王都へ着くと思っていたら、リオが高熱を出して寝込んでしまった。
逃げ出してから長旅の疲れで高熱を出してたみたい。
すぐに宿を取りお医者様を呼んで診察してもらった。
「二、三日この町でゆっくりと過ごしましょう。その間リオをお医者様に診てもらってちょうだい」
ぐったりしているのに何度も謝り起きて仕事をしようとしたリオに……
「気にしないでね」と優しく微笑んだ。
そして熱が下がった三日目、まだリオはうつらうつらとして眠っていたので、わたしは気になってベッドの横に椅子を置いて彼の寝顔を見つつ椅子に座って本を読んでいた。
ふふ、彼の寝顔はとても綺麗で見惚れちゃったわ。あ、でも一応額に濡れたタオルを当てたりと看病もしたのよ。
だって本当に死んじゃうかもしれないと心配でたまらなかった。
「あら?目が覚めたの?よかった」
彼の顔を見ると何故かホッとして泣きそうになった。そしてついリオの額に手を置き「熱が下がったわ」と確認してしまった。
「すみませんでした、ご迷惑をおかけしました」
「いいのよ、別に急いでいたわけではないし。みんなもこの町でゆっくり休めたから喜んでいたわ」
彼は申し訳なさそうに何度も謝った。
「そんなに謝るんだったら王都に着いたらデートして欲しいわ」
「デートですか?」
「そう、だってリオってカッコいいもの。わたしの理想の人なの。駄目かしら?」
こてんと首を横にするとリオはふっと笑顔になった。
「わかりました、記憶がないので王都を案内することは出来ませんがおそばでお守りすることは出来ます」
「守るんじゃなくてデート!一緒に買い物をしたり美術館に行ったり植物園に行ったり、劇を見たり。本屋さんにも行きたいわ」
「一日で全て行くのは無理だと思います」
「一日で行くなんて言っていないわ。何日間かかけて行くのよ!その間はまだわたしの護衛として伯爵家で働いてね?」
そしてリオは熱が下がり次の日には護衛として王都へ向かい、しばらく約束通り伯爵家で仕事をすることになったの。
その間リオと気が合いさらに仲良く話すようになった。
一緒にいて楽しい。
そして……もっと彼の笑顔を見たい。
さらに………ずっと一緒にいたい。
そう思うようになった。
だから…………
お父様にリオが欲しいとお願いしたの。
だって彼を愛してしまったの。だからずっとそばにいて欲しかった。
わたしを………わたしだけを愛して欲しかったの。