52話 グレン
◆ ◇ ◆ グレン
「リオ・コスナー?」
俺の目つきは鋭くなった。
こいつは一体なんで調べているんだ?
諸事情ってなんだ?
それにこの男を見るとなんだか腹が立ってくる。どこで会った?必ず記憶の中のどこかにこの男がいるはずだ。
なのに思い出せない。一度会った人間はほぼ覚えているはずなのに。
この男は俺の名前を言い当てた。
しかしそれは俺の顔を知ってるからではなく俺の動きや体型、髪の色、歳などを考えてのことだった。だが筋肉のつき方、動き、まだ会ったばかりの俺なのに、素性を咄嗟に導き出したアーバン。
この男はかなり優秀な騎士なんだろうと思う。なのに一騎士でしかないと言うことは何かをやらかしたのか?
だからこの街にいるのか?
「悪いがその名前を聞いたからには解放することはできなくなった。なにを調べているんだ?」
俺はさらに警戒する事になった。
「わたしの兄なのではないかと王都で聞いたので調べに来たんです」
アーバンは迷わず俺の顔を真っ直ぐ見ながら話し出した。
「兄なのでは?それはどう言うことだ?」
「兄はわたしと同じ王立騎士団に所属して第一部隊の副隊長をしていました。四年前の隣国との戦いに参加していました。その時に行方不明になり遺体は見つからず死亡とみなされました。
しかし記憶をなくしてこの領地にいるらしいと言う話を最近耳にしたのです。それが本当なのかを知りたくて歩き回り情報を集めていました。
領主代理をしている方になかなかお会いする機会はありませんので、とにかく少しでも似ているのか知りたかったんです」
「リオ・コスナーはエドワード・バイザーなのか?あの若いのに優秀でいずれは団長になれるかもしれないと言われていた男?全く今聞いているリオという男とは違っているぞ」
「兄は優秀で人当たりは良かったですが、人に対して常に本音を見せない人でした。だけどここではおおらかで優しい人だと言う噂です。性格は違っているようですが容姿は似ています」
「そうか……」
エドワードのことは知っている。亡くなったことも。会ったことはないが噂で聞いていた。
俺たちの辺境地の隣の領地での戦いだった。俺たちは辺境地を守り戦っていた。隣の領地は王立騎士団から後援支援を受けて戦った。
その時に副隊長が子供を助けて川に落ちたと聞いた。
その男がラフェの旦那だと知ってはいた。
夫が死んで家を追われたラフェとアル。
この男はアルの叔父だったのか。だからどこかで会ったことがある気がしたんだ。なんとなく顔が似ている。
ならばラフェのことも知っているはずだ。なのにラフェのあの苦境を助けもしない奴だと言うことか。
俺は顔には出さなかったが、本当は怒鳴って殴りつけてラフェの前に連れて行って謝らせたいと思った。
だが俺もラフェのそばを今は離れている。だからなにも言えない。
こんな仕事さっさと終わらせてラフェに会いに行きたい。
エドワードがリオだろうとこのアーバンが探し出すことだ。俺が口出すことではない。
そう思うのに、ラフェの顔を思い出すと幸せになって欲しいと願ってしまう。俺が幸せにしたい。だけどそれが俺の身勝手な思いだったら?
だがエドワードには新しい家庭があり今の妻を大切にしていると聞いている。
こいつに協力するべきなのか?
くっそぉ、ふざけんな‼︎
ラフェをあんなに辛い思いをさせながら暮らさせたコイツらに俺は手助けなんてしたくない!………だが……
俺はアーバンを睨みつけながら考え込んでしまった。