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47話  ラフェ

 ◇ ◇ ◇ ラフェ


「……………お…かあ…しゃん……」


 ベッドの上で高熱を出して寝込んでいるアルバード。

 ぐったりして息が荒い。


 何度も額に冷たいタオルをのせて冷やすがすぐにタオルが温まってしまう。体は熱いまま。


 お医者様に慌てて診てもらったが原因がわからない。


 もう三日も熱が下がらない。


 食事は摂れずにいるし、無理やり水分だけでもと思い水を飲ませてはいるものの、どう見ても衰弱していることがわかる。


 もう町医者では無理かもしれない。


 平民では診療所の決まった薬しか出せないお医者様にしか診てもらうことができない。


 ーーアレックス様の屋敷に行けば、アルバードの病気を診てもらえるかもしれない。


 普段のわたしなら自分から甘えることなどしようと思わない。だけどこのままではアルバードが死んでしまうかもしれない。


 せめて薬があれば。

 もう町医者の薬では治らない。


 先生からも

「わたしが出せる薬はもうない。これ以上熱が下がらなければ大きな病院に連れて行ってやるしかない」

 と言われた。


 でもそこは平民では診てもらえない、貴族の人たちや平民でも裕福な人たち専用の場所。


 隣のおばちゃんの家へ駆け込んだ。


「おばちゃん、アルをしばらく見ていてもらえませんか?」


「もちろんいいよ、アルはまだ熱が下がらないんだろう?」


「はい、アレックス様の屋敷に行ってみようと思います」


 ーー無理かもしれないけど。グレン様がいてくれたら。

 あんなに頼らないとか意地を張ってたのに、わたしはずるい。


 アルバードが熱が下がらなくて不安で、どうしたらいいのかわからなくて頭に浮かぶのはグレン様。

 グレン様がいてくれたら、そばにいて欲しい。彼の声を聞きたい。


『アル、大丈夫か?ラフェ、なんでも頼って来い!いつでも助けてやるからな』


 グレン様のあの自信満々に話す声が安心できた。

 一人でいつも頑張っていたわたし。誰にも自分から頼ることなんてしなかった。

 エドワードが死んであの屋敷を出ても兄さんのところへは行かなかった。兄さんは今もエドワードの屋敷で暮らしていると思っている。


 アレックス様に貧しい生活をしているのを呆れられ

「なんで兄に頼らない?言ってないのか?」

 と驚き言われた。


「兄さんには何にも伝えていません。エドワードが亡くなったことはもちろん知っていますが、エドワードの屋敷で幸せに暮らしていると思っています」


 だってお義母様はずっとわたしに優しくしてくれていたし、兄さんも自分の家で兄嫁に気を遣って暮らすより、エドワードの家にいる方がいいだろうと言っていた。

 そんな兄さんには頼れなかった。


 また兄嫁に嫌な顔をされたくないし、アルバードも赤ちゃんだったので泣いたりするのを嫌がるだろうと思った。

 兄嫁は悪い人ではない。ただ……自分の気持ちに素直な人、だからはっきりと態度にも顔にも出てしまう。それだけなのだ。


 隣のおばちゃんに預けてわたしは脇目も振らず走った。


 途中辻馬車を拾い、アレックス様のタウンハウスを目指した。


 わたしの足では走っても1時間以上かかる。


 辻馬車なら30分はかからない。


 普段は質素な生活をしている。だけどアルバードのためなら貯金を切り崩すことなんて平気だ。


(わたしにとって)高い辻馬車の料金を支払い、アレックス様のお屋敷の門を叩いた。


 わたしの顔を見た門番さんは


「予定の入っていない人の立ち入りは出来かねます」と追い返されそうになった。


「あの、この封筒はグレン様がくれたものです。そしてここにグレン様の直筆の手紙があります。お願いです、これをこの屋敷の1番偉い人に見てもらって欲しいのです」


「グレン様?」


 わたしは一応持っている服の中で一番綺麗なデイドレスを着て訪れた。あまりにも身なりが貧そだと門で相手にされないことはわかっているから。


 わたしを怪しい者でも見るかのように一瞥して一人の門番さんが屋敷の方へと入って行った。


 もう一人の門番さんはじっとわたしを見て


「あっ、旦那様が以前体調が悪くて連れて来られたラフェ様?」

 と聞いて来た。


「はいそうです」


「ラフェ様がもし突然来ても追い返すことなく通すように申し使っていたのにすみません。

 ラフェ様は平民の方だと聞いていたのでワンピースなどの普通の服で来ると思っていました。まさかきちんとしたデイドレスを着て来られるとは思っていませんでした」


「あっ……普段のワンピースでお屋敷に突然訪れるのは失礼かと思いまして、きちんと着替えて来ました」


 ーー平民だから高価なデイドレスやドレスを持っていないと思われていたのね。


 それも仕方がないのかもしれない。


 平民。


 平民がドレスやデイドレスを着て過ごすことはほぼない。


 わたしはエドワードのお屋敷に住んでいる頃は当たり前のようにドレスを着て過ごした。

 エドワードの屋敷を出る時、数枚のデイドレスとドレスだけは持って出た。


 着ることはないかもしれない、だけど平民になっても貧しくても、心まで貧しくなりたくなくてドレスを着ることはなくてもたまに見るだけで心を強く持つことができた。


 アルバードのためにもただ貧しいからと何も出来ないではなくマナーや教養だけは身につけさせようと。それがいつかアルバードの糧になるかもしれない、そう思って来た。


「中にどうぞお入りください、今中に入った騎士にも伝えますので」


 わたしは玄関まで案内されて扉を開けてもらった。


 すると慌ててさっきの騎士さんと執事さんがわたしの前にやって来た。


「ラフェ様、失礼な態度申し訳ありませんでした」

 騎士さんが謝ってくれた。


「前触れもなく来たのはわたしです、それなのにわたしの話を聞いてくださり執事さんに話をしてくださいました。感謝しております」





 そして何度かお会いしたことがある執事さんが

「何かございましたか?」

 と心配して聞いてくれた。


 わたしが突然来たのは何かあったからだとすぐに思ったようで

「私で出来ることならなんでも致します」

 と言ってくださった。


「お願いがあります、アルバードの熱が下がりません。薬を飲ませてはいるのですが診療所のお医者様の薬ではこれ以上効かないと言われました。どうかお医者様を紹介していただけませんか?もう熱が下がらなくなって四日が経っています」


「わかりました、すぐに手配しましょう」


 そう言うと他の使用人が走って屋敷を出て行った。


「アルバード様は動かせる状態なら今からこちらに連れて来られませんか?こちらの方が手も行き届きますし何かと揃っています」


 わたしは唇を噛み締めた。


 あの家には栄養のある食べ物は確かにない。生活はできてもアルバードを助けてあげられるものは何もない。


 氷だって買いに行くしかないけどすぐに溶けてしまう。

 この屋敷なら氷の心配も、食べ物の心配もない。


「お願いします、アルバードを助けてください」


 わたしは何度も何度も頭を下げた。


 あの子を誰か助けて!








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