45話
◆ ◇ ◆ グレン
例の商会に何度となく買い物に行くようになった。顔見知りに少しはなったがまだ例の薬を売っては貰えない。
そんな中俺は商会に行っては財布から金貨を見せて金をちらつかせながら
「なんかいい薬は売ってないのか?最近疲れるしいいことないし、女買いたいのに元気になってくれないんだ。元気になれる薬でもあったらすぐに娼館に走るんだけどな」
ニヤニヤ笑いながら店の男に言うと
「お客さん、そんな薬があったら俺が買いますよ」と薬のことを否定した。
ーーちっ、まだ警戒されてるな。
仕方なく適当に疲労回復にいいと言われた隣国で流行っているハーブティーを買って帰った。
そしてまた少し間をあけてから、例の商会へ行った。
「この間買ったハーブティーなかなか美味しかった。他におすすめはないか?」
この店の店主が俺に対応してくれるようになった。
少し落ちぶれて見える俺は、側から見れば何か悪いことでもしてお金を稼いでるように見えるだろう。
何度となく俺の様子を窺っていた店主がやっと警戒心が薄れて俺の前に現れるようになった。
まだ例の薬のことは何も言われない。しかし俺のことを値踏みしているようで、俺はこの店主に気に入られるまで何度となく顔を合わせることになった。
そしてある日俺は街中をひたすら走った。
「やめろ!なにすんだ!」
「いってぇな!何貴様らしてるんだ?」
「裏切り者!」俺は店の近くで怒鳴り合いを始めて、喧嘩の最中に例の店の当主が助けに来た。
「お前達、一人の人間にこんなたくさんの人数で殴る蹴るするなんて!!やめなさい」
俺を助け出してくれた。
店の中に連れてきてくれて傷の手当てをしてもらった。
「助けてもらってありがとう」
「何があったんですか?」
俺は顔を顰めてしばらく黙った。
だが仕方なく諦めて話し出した。
「あいつらは俺がちょっと騙した奴らなんだ。だけど俺が金がないから代わりに腹いせに殴ったり蹴ったりしたんだ」
「え?いつもあんなに金を持ち歩いているのに?」
「あいつらが俺の周りをチョロチョロしてたんで」と言って俺は靴を脱ぎ靴底に隠していた金貨をニヤッと笑い店主に見せた。
「なかなかずる賢いですね」
「世の中、金が全てだからな。あいつらに返す金なんてあるわけない。全部俺のもんさ」
「そりゃそうですよね?自分が頭を使って稼いだ金なんだから」
当主も俺の言葉に感心していた。
あいつら本気でぶん殴って来た。
『本気でやれ』とは言ったけどこんなに痛いとは思ってもみなかった。
ま、これで俺はこの店主に簡単に使える男だと思われただろう。
あとは店主と仲良くなるだけだ。
◇ ◆ ◇ アーバン
アダムさんから兄の居場所を聞いた。
“コスナー伯爵”
王都で暮らしている伯爵家でそれなりに力を持っている。
確か娘が領地で婿を取り領地の運営を任されていると噂で聞いた。
やり手で最近コスナー領は安定した税を払っていると聞いている。だから領地の住民も安定しているので争いごとも少ないはず。
その手腕は兄貴?
あの人なら記憶はなくても優秀だから簡単にこなしてしまうだろう。
ただ記憶喪失の男だとかそんな噂は流れていない。
調べてみたら親戚から婿をもらっている『リオ』と言う名の人らしい。
『リオ・コスナー』
辺境地に近いかなり田舎の土地で、緑豊かな自然が多く土地を整備して観光地として賑わい始めていると聞いた。
領地の鉱山で採れる石は質の高いルビーでそれを加工して他国に進出して売り出しているらしい。
捨てられる小さな屑石も加工して観光地客のお土産用に安価で売っているらしい。
農地も整備され農民達に作るものを指定して、必要な量の作物を作り、安定した供給が出来るようにしたことで無駄に捨てられる作物が減り農民達も収入が安定しているらしい。
調べれば調べるほど優秀な男だ。
人相も兄に似ていた。
王都には出てこないでほぼ領地運営のみをしているので社交界では顔が広まっていなかった。
伯爵家が敢えて顔を隠していたのだ。
父上には報告したがまだはっきりとはしていないので一度遠くからでもいいので会いに行くことにした。