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2話  ラフェ

 ◇ ◇ ◇ ラフェ


 憔悴の中、これからどうしたらいいのか考えなければいけない。


 両親はもう亡くなっている。

 兄さんは結婚して家族がいる。そこに身重のわたしが帰れば負担になってしまう。


 エドワードの両親と話さないといけない。

 仕事中の事故なので、国から遺族のためのお金が毎月支払われると聞いた。


 そのお金で子供を育てるしかない。

 悲しみの中、生きていくため現実の生活がわたしを苦しめる。


 騎士爵をまだ受ける前のエドワード、もらえる額も少ない。


 わたしが働けば何とかやってはいけるだろう。そんなことを考えながら過ごしているからか食欲も湧かない。


 悪阻のせいなのか精神的なせいなのかいつもフラフラして寝込んでばかりだ。


 アーバンが心配して毎日離れのわたしの家に顔を出してくれる。


「ラフェ、これ好きだっただろう?」

 新鮮な林檎を持ってきてくれた。


「ありがとう、でも食欲がないの。テーブルに置いててちょうだい、後で頂くわ」


「そんなこと言って食べないつもりだろう?ラフェが食べ終わるまでここに居るからな」


「わかったわ、食べるから心配しないで!」


「………もう三ヶ月も経ったんだ……そろそろ気持ちの整理をしてお腹の赤ちゃんのためにも前に進もうよ。俺も協力するから」


「アーバンだって彼女がいるでしょう?ベルさんが怒るわよ?わたしのことなんて放っておいても大丈夫だから」


 アーバンは付き合い出した彼女がいる。

 わたしも何度か会ったことがある2歳年下の騎士団で事務の仕事をしている女の子。


 とても可愛らしい素直な女の子。


「ベルだって分かってくれている。兄さんがいなくなって今が大変な時だって納得してくれている。ラフェ、頼むから俺に頼ってくれ。俺は幼馴染で友人で義弟なんだ」


「ダメだよ、アーバンにだけは頼れない。お願いだからそっとしておいて欲しいの」


 わたしはアーバンを拒絶した。


 わたしとエドワードの婚約は子供の時に結ばれたものだった。彼と結婚することは決まっていた。

 エドワードのことは兄のように慕っていたし、恋ではなかったけど家族としてずっと暮らしていけると思っていたし……今はエドワードを愛していた。


 だからこそアーバンには頼りたくなかった。アーバンにはアーバンの人生がある。いくら仲が良くても恋人に勘違いされてしまうような行動は避けたい。


 わたしとアーバンは学生の時から何かと勘違いされていた。


 わたしの婚約者がアーバンの兄と知らない同級生にどれだけ酷いことを言われただろう。


「アーバンと婚約しているわけでもないのに何でそんなに仲良くしているの?平凡で取り柄もない子のくせに!」


「アーバンに優しくしてもらっているからってつけ上がらないで!幼馴染って言うだけでしょう!」


「休みの日にアーバンの家に遊びに行ったと聞いたわ!何であんたみたいな目立たない子が仲良くしているの?一度自分の姿を鏡で見てみたら?」


 アーバンは頭も良くて背も高い。

 さらに剣術に優れていて女の子に優しい。


 そんな彼を女子が放っておくわけがない。とにかくモテた。


 だから出来るだけ関わらないようにしていたのに、彼は平気でわたしに話しかけてきた。

 おかげで学生の間は女子たちにどれだけ嫌味や意地悪をされたか……

 思い出しただけでゾッとする。


 平凡で家族は兄だけのわたしと、騎士爵を持つ父親が居てかっこよくてモテるアーバン、幼馴染とは言えわたしの分が悪い。


 思い出すだけでうんざりだ。もうあんな酷い目に遭いたくない。


 エドワードとの婚約のことを(隠してはいなかったけど言ってもいなかった)女子たちが知った後は、エドワードも憧れの騎士として人気があったのでやっかみが酷かった。


 結局学生の間は、美形の兄弟のせいで仲の良い友人以外にはかなり酷い目に遭わされた。


 だからアーバンがわたしに優しくしてくれるのはわたしにとってはあまり好ましくない。



 そんなわたしの心情を知らないアーバンはとても優しくしてくれる。


 §

 エドワードが行方不明になって半年。


 エドワードの両親から告げられた。


「今月いっぱい待って……エドワードの死亡届けを出そうと思う。そして葬儀をしてやりたい。ラフェは生きていると信じてくれているのだが騎士団の方からもきちんとするようにとお達しがきている」


「ラフェはここで暮らすか実家に帰るか好きにしていいのよ?わたし達の娘だと思っているんだから甘えてくれてもいいの、あと少しで赤ちゃんも産まれるわ。わたし達は貴女の意思を尊重するわ」


 俯いて泣くことしかできなかった。現実を受け止められない。だけどお腹はどんどん大きくなっていく。どうすればいいのだろう。






 





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