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122話  グレン

 ◆ ◇ ◆ グレン



 ラフェとアルを屋敷まで連れてきた。


 二人には体をゆっくり休めてもらおう。


 朝早く起きて一人アレックス様の屋敷へと向かう。

 俺が単騎で走らせれば30分くらいで着く。



 騎士達の朝は早い。

 もうみんな早朝練習を始めていた。


「グレン様、お帰りなさい」

「お疲れ様です」


 朝から元気な声が聞こえる。


「アレックス様は?」


「執務室です」


「わかった」


 俺は「また後で」と騎士達に言ってアレックス様の元へ向かった。




「失礼します」


「おかえり、思ったより早かったな」


「はい、ラフェとアルも一緒に連れて帰ってきました」


「うん……で?」


「二人を幸せにしたいと思っています」


「後ろ盾にはなるよ、ただ、その前に……」


「はい、今から行こうと思います」


「頑張ってこい」


「手紙は何度か送っています。返事はまだ来ておりませんが決めたので認めてもらえなくてもラフェと結婚するつもりです」


 俺はアレックス様にコスナー領で起きた麻薬事件と王都でアルに麻薬を飲ませた事件のことなどを纏めた詳しい報告書をアレックス様に渡した。


「一応事件は解決しました。もうすぐ国王は退位してミハイン殿下が国王になると思います」


「あの人はもう使いものにはならないだろう?」


「精神的に病んでいますね。己が招いたことです、同情の余地などありません」


「…そうか、お前が納得したのなら俺は何も言わない。コスナー領の管理は辺境伯領の土地と共に俺が管理することになった。グレンが任されている領地と共にお前に頼みたい。出来るか?」


「大丈夫です。薬漬けになった領民達を元の健康な体に戻し、もう一度街を健全に再生していきます」


「よろしく頼む、お前の親父さんと兄にも声を掛けて協力を仰げ。一人でなんでもできると思うな。お前もラフェと同じでキツくても意地を張って無理をするからな」


「無理をするのをわかってて貴方がコスナー領の再建を俺に託したのでしょう?」


「お前しかいないだろう?あの街を少しでも早く元に戻してやれるのは。よろしく頼む」


「わかりました。とりあえず今日はこれでお暇します」






 またしばらく忙しくなりそうだ。


 兄は辺境伯領から少し離れた場所にある伯爵家の娘と結婚して婿入りした。そして俺が子爵の爵位を継いだ。


 父は今もアレックス様の片腕として騎士として働いている。そして俺を助けて領地運営も手伝ってくれる。


「また二人に頭を下げて助けてもらうしかないな」


 優秀な二人だ。次男の俺は二人には頭が上がらない。

 今度ラフェを紹介しないといけないな。

 父上は、ラフェのことを知っているが兄は会ったことがない。


 たぶんラフェのことは気に入ってくれるだろう。


 それより先に……行かなければ。


 本当は前もって挨拶をして話をしておきたかった。


 だが、ラフェを連れてくることになったのは突然だった。今から会いに行く人に絶対話を通さなければいけない訳ではない。

 だが自分のけじめだ。








「お久しぶりです、ご無沙汰しておりました」


 ここはマキナの実家。足を運んだのはマキナが亡くなってからは初めてだ。


 かなり緊張していた。喉がカラカラだった、


 目の前に温かい紅茶を出され、少しだけ喉を潤した。


 前に座っているマキナのご両親に向かい合う。



「わたしは……再婚しようと思っております」

 緊張しながらも二人に伝えた。


「手紙をいただいたので承知しております」

 マキナの母が先に答えてくれた。


「態々話をしに来なくてもよかったのでは?マキナが亡くなってもうすぐ4年になります。グレン様はまだお若いのです、幸せになって欲しいと思っております」

 マキナの父もそう言ってくれた。


「わたしはマキナを守ることができませんでした」

 思い出すのはあの出産で苦しんだマキナの姿。


「それは仕方がないことです。出産にはリスクが付きものです。こればかりは誰も責めることはできません」


「それでもマキナを守りたかった。生まれてくる我が子を助けたかった。自分の無力に何度腹立たしさを覚えたか……」


 妊娠なんてさせなければ……



「マキナと生まれてこれなかった子供のために貴方はずっと孤独と後悔と戦ってくれました。

 わたし達は心配だったんです。貴方がマキナに囚われて生きていくことが。

 マキナも貴方の笑顔が好きだと言っていました。

 貴方に新しい伴侶が出来たこと、マキナも喜んでいると思います」


「……俺は……マキナを愛していました。その気持ちは今も変わりません。だけど今はラフェを守ってやりたい。彼女の息子のアルの父親になりたい。そう思っています」


「悩んだのでしょう?もう幸せになってください」


「悩む……そうですね。マキナを愛していて、ずっとそうやって生きていくはずだった。それでいいと思って、他の女を遠ざけていました。まさか自分からまた女性と関わろうなんて思ってもいませんでした。

 最初はラフェがマキナに似ていると思いました。儚くて守ってやらなければいけないと。

 だけど中身は全く違っていました。弱いくせに意地っ張りで泣き虫のくせに我慢して泣かない、そんなラフェに惹かれてしまいました。

 マキナのことを愛しているのに。自分自身戸惑いました」


「それでも、今は気持ちに整理がついたのでしょう?」


「はい、マキナのことは忘れられません。これからも心の奥に大事にしまっておこうと思います。そのことはラフェにも話しています」


「幸せになってください。それがマキナの気持ちだと思います」


「………ありがとうございます」




 そして頭を下げて俺はマキナの実家を後にする。


「グレン殿……マキナにいつも会いにきてくれてありがとう」


 マキナの父が別れの挨拶の時にそう言った。


「ご存知…でしたか……」


 マキナと息子の墓は、この領地にある。


 マキナの両親に、マキナが亡くなって、娘に生まれ育ったこの場所に眠らせてやりたいと頼まれた。


 俺は時間があればマキナの墓に来ている。


「再婚してもマキナのことは忘れません。そして息子のことも……これからも会いに来ます、二人には」




 俺はそのまま、マキナの墓に向かった。


 雑草は抜かれて綺麗な状態を保っているマキナの墓。

 いつもここに家族達が来ている証拠だ。亡くなってもなおご両親に愛されている。


 マキナに再婚することを報告した。


 ラフェのことは墓参りのときにマキナに何度か話していた。


 彼女には嘘はつかない。たとえ何の返事も返ってこなくとも。


 俺は墓の前にしばらく座ってマキナと過ごした日々を思い出していた。


 儚く弱いマキナ、ずっと守っていくのだと思っていた。俺の目の前からいなくなった時、絶望しかなかった。


 マキナより愛する人はいない。そう思って過ごしたのに……マキナを裏切ってすまない。


 だが、それでも……ラフェとアルを愛していきたい。マキナへの想いを持ったまま。




「次はラフェとアルを連れてくる」


 俺はマキナにそう言った。





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