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114話  ラフェ

 ◇ ◇ ◇ ラフェ


「ラフェとアルがいなくなると寂しくなるわ」

「またいつでも王都に来たら会いに来てくれよ」

「アル、おばちゃんのこと忘れないでね」


 近所のおじちゃんやおばちゃんに最後の挨拶をした。


 アルをみんなが順番に抱きしめてくれる。アルもさよならの意味がわかるので、みんなにくっついて離れようとしない。


 三年間みんながいてくれたからわたし達親子は生きて来れた。


 何度も何度もお礼を言った。

 何度も何度も別れの挨拶をした。


「また会いにくる」そう約束をして。


 その後、友人のエリサのお店に顔を出した。


 洋服屋さんに嫁入りして、わたしが一番辛い時ずっと助けてくれた大切な友達。


「今までありがとう」


「何言ってるの!うちのお店もラフェのおかげで人気が出たんだよ。それにラフェが縫い方を教えてくれたおかげでみんな技術も向上して、これからも安泰だし!今まで苦労した分、幸せになってね」


「うん、エリサも!また王都に来たら顔出すから!」





 もう一つ会いに行かなければいけないところがある。


 それは………


 お義姉さんのところ。


 兄さんとは会って話すようになった。

 でももう何年もお義姉さんとは会っていなかった。今更わたしに会っても腹立たしいだけかもしれない。


 頼ることすらしない可愛げのない義妹だもの。兄さんも敢えてお義姉さんのことは話そうとしないので今どんな風に生活しているのかもわからない。


 甥っ子はもう15歳になっているはず。

 その後生まれた姪っ子は12歳。


 自分が子供すぎて何もしてあげられなかった。だから今日は料理長さんにお願いをしてケーキの焼き方を習い、手作りケーキとそれぞれの歳に合わせた服を縫ってプレゼントとして用意をした。


 わたしに出来る精一杯のプレゼント。

 背の高さや大きさ、好みは兄さんに聞いた。


 甥っ子にはお出かけ用のスーツ。姪っ子にはおしゃれが楽しめるように手の込んだ可愛いデザインのワンピースを。


 そしてお義姉さんにも、おしゃれをして欲しくてパーティーとかで着られるドレスを。


 生地はエリサに安く売ってもらった。あとはひたすら縫うだけ。


 でも兄さんの家に行く時に気がついた。


 兄さんには………忘れていた。


 怒るかしら?


 不機嫌になる兄の顔が浮かんでくる。


 辺境伯領へ行ってから送ってもいいかしら?


 アルバードと馬車に乗ってそんなことを考えていたら、わたしの顔を覗くグレン様。



「うん?どうした?一人で怒った顔をしたり困った顔をしたり、突然笑ったり、何考えてるんだ?」


 クックックッと笑い出す。


 アルバードもキョトンとして「おかあしゃん?」と声をかける。


「あっ、うん、あのね、兄さんにプレゼント忘れてたの」


「今から急いで誰かに取ってきてもらおうか?」

 馬車を止めようとするグレン様の手を思わず掴んだ。


「違うの!屋敷に忘れたのではなく………用意するの忘れてたの」


 最後の方は声が小さくなった。


「はっ?用意?シエロさんのだけ忘れた?」


「うん、プレゼント喜んでくれるかな?なんて考えてたら、思い出したの!兄さんのが……ないって……」


「そうか」


「やっぱり怒るかな?」


「いや、怒りはしないだろうけど……ちょっとショック受けるかも……忘れ去られていたことに……」


「……ですよね?」





 おかげでお義姉さんに会うことが気が重いなんて考えていたはずなのに、今は兄さんがどんな顔をするだろうと考えてしまい、兄さんの家に行っても、逆にすんなりお義姉さんと向き合えた。


「お義姉さん、ご無沙汰しております」


「……ほんとに!ラフェは意地っ張りなんだから!わたしも……酷い義姉でごめんなさい」


 実はここに会いにくるきっかけは、隣のおばちゃんからの言葉だった。


 あの家に引っ越したばかりの頃、まだご近所さんの顔も知らないわたしを心配したお義姉さんが、近所の人たちに頭を下げに行ってくれたらしい。


『義妹が赤ちゃんを産んだばかりで必死で生きています。わたしはあの子に冷たく当たってきました。だから頼ってきてはもらえませんし、今更わたしが手を差し伸べても嫌だと思うんです。どうかほんの少しでもいいので声をかけてあげてもらえませんか?お願いいたします』

 そう言って近所を回ってくれたそうだ。


 わたしがあの家に引っ越したことも知っていたみたい。エリサの店に客としてよく服を注文してくれていたことも最近知った。


 お義姉さんはわたしが知らないところでずっと見守っていてくれた。


 隣のおばちゃんのところに顔を出しては

『アルにこれを食べさせてあげて欲しい』と持ってきてくれていたらしい。


 ものすごくわかりにくい優しさで、絶対わたしには言わないで欲しいと頼まれていたらしい。


 ほんと意地っ張りで素直じゃない性格はお互い似ているのかもしれない。


 グレン様はその話を聞いて笑った。


『血は繋がってないけど、似たもの同士だな』


 わたしもそう思う。お義姉さんにキツく当たられたけど今になったら余裕のない時期だったんだから仕方がなかったのかなって思える。アルバードを育てたからわかること。


 家の中に入ると、なんとなくわたしに似た姪っ子が椅子に座っていた。アルバードはすぐに姪っ子と仲良くなり一緒に遊んでいる。


 甥っ子はグレン様と話をしていた。学校を卒業したら兄さんの仕事を手伝うつもりだけど、騎士にも憧れているらしい。


 二人だけの家族。そう思って暮らしていたのに、本当はここにもわたしの家族はいたのだとやっと気がついた。


 わたしの好きだったミネストローネをたくさん作って待っていてくれた。


 わたしが縫った服を三人にプレゼントしたらとても喜んでくれた。


「なあ?俺のは?」

 兄さんに聞かれて「次の時」と小さな声で言うと、グレン様がお腹を抱えて笑ったので、忘れていたことがバレてみんな大笑いしていた。


 兄さんはかなりショックだったみたいで

「俺、次の時はスーツ二着!」と言われてしまった。


 そう、また、『次』に会える約束をした。



 馬車の帰りに遊び疲れて寝てしまったアルバードを膝の上に抱っこしてくれたグレン様。


「よかったな、お義姉さんとのわだかまりが取れて」


「はい。グレン様がわたしのことを意地っ張りだとか言ってたけど、もう認めるしかないですね。もう少し素直になっていれば早く優しさに気づけていたのに……もう王都を発ってしまう時になって知るなんて……」

 シュンとなってると「また会えるさ。次は兄さんの忘れないようにしなきゃな」


「うん、そうします」


 馬車の中でアルバードとグレン様が一緒にいる姿に何故か幸せを感じる。


 血は繋がっていないけど、アルバードにとってグレン様は大好きで大切な人。そしてグレン様も小さいアルバードをとても大切に想ってくれている。


 こんな幸せが訪れるなんて思ってもいなかった。


 もうすぐこの王都を離れてわたしはグレン様のお嫁さんになる。





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