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107話  グレン

 俺は王妃が入れられようとした北の塔へ向かった。


 王妃が入るはずの北の塔の部屋は、中から自殺防止の格子がはめられていた。


 どうやって自殺したのか?


 その場にいたという騎士に話を聞いた。


「陛下とミハイン様と数人の騎士たちとこの部屋へ向かいました。王妃様には特に何かで縛ったり手錠などはしておりませんでした。体も痩せ細って弱っていました。なのに騎士と陛下達の間を歩いていた王妃様が突然下にいた騎士達を押しのけて階段を駆け下りました。そして扉の開いていた部屋に駆け込みそこのベランダから飛び降りました」


「そんな事が出来たのか?あの体で?」


「北の塔の階段はかなりの段数です。途中何度か休憩を取りました。その度に部屋に入りお茶を飲んでいただき休憩を取りました。その時に部屋の作りを見ていたのだと思います。王妃様は迷わず部屋に入ると……微笑みながら………飛び降りました」


 騎士は涙ながらに話した。


 王妃は覚悟を持って自ら死を選んだのだ。


 だから俺に亡くなった後手紙が届いた。



 俺は陛下に謁見を申し入れたが陛下は誰とも会おうとしないらしい。


 あの人に傷つく権利などない。あの人が王妃を死に追いやったんだ。そして俺も。


 なのに王妃は俺に幸せになれと書いていた。


 それが最後の願いなのか?


 陛下の私室へと無理やり向かった。


「グレン様、陛下は誰ともお会いしたくないと申しております」

「お願いですから、おやめください。貴方を捕まえたくはありません」


 護衛騎士達が俺の行く手を阻んだ。


「すまない、だが会わないといけないんだ。俺は王妃から最後の手紙をもらった者として陛下と話さないといけないんだ。頼む、捕えるのは少しだけ待ってくれ。話してからなら喜んで捕まるから」


 俺は顔見知りの騎士達に頭を何度も下げた。


「………私達は今休憩中なんです。ここを誰も通っていません、な?みんな」

「ああ、今休憩中だ」


 騎士達はみんな目線を違う方へ向けた。


「すまない、ありがとう」


 俺はみんなにもう一度頭を下げて陛下のいる部屋へ向かった。


 鍵は掛かっていた。しかし、護衛騎士から鍵を預かっていた。


 静かに中に入るとカーテンは閉められて昼間だというのに薄暗く、陰湿な空気が澱んでいた。


 よく見ると陛下はソファに座りただじっとテーブルを見ていた。俺に気がつくこともなくただ座っていた。


「陛下?」声をかけるもぴくりとも動かない。


 まさか死んでる?


 そう思って近くに寄ると


「誰だ?」と低い声で小さく呟いた。


「突然伺い申し訳ありません、グレンです」


「わたしを笑いに来たか?それとも文句を言いに来たのか?

 お前は王妃が死んだ理由も知っているのだろう?それに遺書もお前にだけ書いていたんだ。

 なんて書いていた?わたしを恨んでいたのだろう?わたしはフランソアに嫌われていたからな」


「ご自覚があるのなら聞く必要はないのでは?」

 俺は冷たく言い放った。


「お前に何がわかる?どんなにフランソアに赦しを乞おうとも彼女はわたしを見ようとしなかった」


「王妃の心を壊したのは貴方と母でしょう?そして生まれてしまった俺。今更何を言っているのですか?」


「わたしは……セリーヌを愛した、そして彼女を失って……気がつけばいつの間にかフランソアを愛していたんだ………」


「はっ?その態度で?

 俺が貴方に王妃のことで話したかったのは……王妃は何も貴方に恨みなど書いていないと言うことです。そしてミハインと俺がこれからは仲良く過ごして欲しいと書かれておりました」


 本当はもっと色々言ってやりたかった。


 王妃が俺にして来たこと、ラフェにやったことは、許せない。だけど根本的な元凶はこの目の前の陛下なんだ。この人を責められるのは王妃だけだ。


 俺は……俺が思った王妃の気持ちだけを伝えよう。


「王妃はわたしに何も伝えることはなかったのか……」


「貴方がどんな風に王妃に接して来たのか俺にはわかりませんが、なんとなく王妃を見て気づくこともありました。王妃は貴方に愛されたかったんだと思います。ただ愛されたかった……なのに俺たちのせいで彼女の心は壊れた。貴方は一生王妃に何も伝えられなくて苦しみながら生きればいい。それが貴方への罰だ。王妃の元へ行こうなんて許されませんから。貴方にそんな権利はない。苦しんで生き続けるのが貴方の贖罪だ」


 俺はそれだけ言って陛下の前を去った。


 騎士達は何も言わず俺に頭を下げて、俺は捕まることなくそのまま王城を後にした。


 俺が陛下を罰することなんて烏滸がましい。だけど、王妃の言葉を伝えるのが俺が生まれてしまったことへの罰なら受け入れよう。


 そして、ラフェの元へと向かった。





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