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10話

 ◇ ◇ ◇ ラフェ


 ベルさんがたまにアーバンと二人で離れに顔を出すようになった。


 アーバンは一人で子育てをしているわたしが退屈だろうからと連れて来てくれるようだ。


「じゃあ二人でゆっくり話してて。俺は何かもらって来るから」


 アーバンは本邸にお茶やお菓子を受け取りに行く。


「待って、もうわたしもアルバードが大きくなって来たから動けるようになったの。だからお茶くらいはこちらで淹れてあげられるわ。それに昨日の晩、ケーキも作ったの。だからアーバン取りに行かなくて大丈夫よ」


「えっ?ラフェもう大丈夫なのか?」


「ええ」


「あら?アーバンったら出産も子育ても病気じゃないのよ。動けて当たり前なんだから!今まで甘えすぎていたのよ」


「おいベルそれは言い過ぎだろう?」


「ううん、確かになかなか眠れなくて体調悪かったけどもう平気よ」


「アーバンゆっくりと座ってお話でもしてようよ」


 アーバンは困った顔をしてベルを見ていたので

「ゆっくりしていてお客様なんだから!」


 と言ってキッチンへと向かった。


 アルバードはお昼寝中だったので手がかからずお茶を淹れてケーキを切り分けていた。


「ふんぎゃぁーーー」


 アルバードの泣き声がおかしい。

 わたしは慌ててあるバードの寝ている部屋へ向かった。


 そこにはベルさんがいて、ベッドを覗き込んでいた。


「どうしたんですか!」


 後ろから声をかけるとベルさんは一瞬ニヤッと笑ったような気がした。


「あら?ラフェさん、暇だったからアルバート君を見に来ていたの。そしたら目が覚めたみたいで泣いていたのよ」


 困った顔をして「ごめんなさい起こしてしまったみたい」と言ったので


「いいえ、お茶はもうテーブルに用意してあります。ケーキはアーバンがキッチンに取りに行ってくれたのでよかったらお二人でゆっくり食べていてください」


「ありがとうじゃあ先にいただくわ」


 ベルさんが部屋から出て行ったあと泣き止まないアルバードを抱っこして窓際に行き外を見せながらあやす事にした。


 ふと見ると右側の太ももの内側が赤くなっていた。


「どうしたのかしら?」


 アルバードの赤くなっているところは少しだけ傷になって血が滲んでいた。


 ーーまさかつねった?


 もう一度よく見てみた。


 ベルさんは来るたびに嫌味は言ってくるがアルバードを傷つけたりはしなかった。


 とりあえずアルバードを泣き止ませるためにお乳を飲ませ抱っこしてあやしていると、アーバンが部屋をノックして入って来た。


「ベルがそろそろ帰ると言うから送ってくる。あとで片付けに来るから。アルバードは甘やかされすぎてるんじゃないのか?ベルもそう言っていたけど」


 わたしはカチンときてアーバンに向かって静かに言い返した。


「そう思うのならもう二度とここには来ないで。わたしにはわたしの考えがあって子育てしています」


 アーバンは一瞬固まってそれから苦笑いをしながら「俺もベルも心配して来てやってるんだ」と言われた。


「そう、だったら二度と心配しないで、さよなら」

 わたしはアーバンに背を向けた。


 わたしの大切なアルバードを傷つけたベルさんを許せなかった。だけど証拠はない。


 母親であるわたしが怪我をさせてベルさんを悪者にしたと言われれば言い返せない。


 でもあの異常な泣き方、たった今出来たこの傷、ベルさんしかいない。









 ◇ ◆ ◇ アーバン



 ベルと別れることはできなかった。


 何度か別れたいと告げたが、「別れるなら死んでやる」とか「わたしの純潔を返して」と泣き叫ばれるとどうしようもなくなる。


 仕方なく優しくそばに居るといつもの明るいベルに戻る。俺自身もベルと付き合うことでラフェを忘れようとしたずるい男だ。


 簡単にベルを捨てるなんて出来なかった。


 それにラフェを愛していても、ベルの明るさや優しさが好きだった。


 ベルはラフェが一人で子育てしていることに心配してたびたび会いに行こうと言った。


 俺はそんな優しさが嬉しくてラフェのところへ二人で会いに行った。


 それなのにラフェは少しだけ困った顔をする。ベルの優しさを嫌がっているのか?


 せっかくのアドバイスすら嫌味として受け取っているし。

 母上が用意してくれるお菓子もいらないと言い出した。


 ラフェの頑なな態度に少し腹を立てていた。


 そしてラフェがお茶の支度をしている間


「アーバンわたしアルバードくんを見てくるわ」と言って気を遣ってベルが様子を見に行ってくれた。




「ふんぎゃぁーーー」


 アルバードの寝ている部屋から大きな泣き声が聞こえて来たと思ったら、ラフェが慌てて部屋へと向かった。


「アーバン、はい、お茶!キッチンにケーキあるから勝手に食べてて!」


「わかった」



 そしてベルが落ち込んで俺のところへ戻って来た。


「どうして泣き出したんだ?」


「目が覚めてお母さんが居なかったから泣いたみたい、ラフェさんがべったりしすぎてるから甘えてしまうのね」


 ーー甘やかしすぎたらラフェ自身がキツいだろう。


 俺はラフェが最近痩せてしまっているので心配だった。


 二人でお茶を飲んでケーキを食べて、とりあえず仲良く話して帰ることにした。


 なかなか出てこないラフェの所へと声をかけに行った。




「ベルがそろそろ帰ると言うから送ってくる。あとで片付けに来るから。アルバードは甘やかされすぎてるんじゃないのか?ベルもそう言っていたけど」


 俺は心配で言ったつもりだった。


「そう思うのならもう二度とここには来ないで。わたしにはわたしの考えがあって子育てしています」


 俺は一瞬固まってそれから苦笑いをしながら「俺もベルも心配して来てやってるんだ」と言い返した。

 ーーなんで人の気持ちがわからないんだ?

 腹が立った。だけど今のラフェに言っても聞いてもらえそうもない。



「そう、だったら二度と心配しないで、さよなら」

 ラフェはそう言うと俺に背を向けた、そして二度とその背中は俺には振り返らないように思えたが、ラフェがそんな事するわけない。

 今は機嫌が悪いだけなんだと思って、とりあえずベルを送ることにした。


 まさかその後本当に家に入れてもらえないなんて思ってもみなかった。




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