87.一緒がいいのに離れるのはヤダ
次の日も、全員一緒だった。コテツが遊びに来たので、ルミエルと手を繋いでお外へ出る。手を離さない約束をしたの。にゃーも一緒に来て、追いかけっこをした。
たくさん遊んで木の下でお休みする。メリク達は難しいお仕事の話があるんだって。伝わってくるのは、知らない言葉ばかり。僕には分からなかった。
「ご飯にするぞ、帰っておいで」
メリクの呼ぶ声に、僕とルミエルは走り出す。にゃーが後ろを走って、コテツもついてきた。お家の玄関で止まった僕は、メリクに抱っこされて家の前のベンチに座る。ルミエルと手が離れちゃった。
「俺と手を繋ごうか」
「うん」
メリクと繋いだ手は少しひんやりする。ベンチの前にどんと机が現れた。ゼルクが片手で持ってきたの。すごいね。
シュハザがスープのお鍋を運んでくる。熱くて湯気出てるのに、平気なんだ。驚く僕の前でご飯が準備された。サフィがパンを持ってくる。
「あら、手を繋いでると食べられないわよ」
くすくす笑うサフィに言われて、あーんが出来ないと気づいた。でも手を離すのは嫌だ。少し考えて、反対の手を使おうと思う。
「気をつけるんだぞ。逆の手を繋ごうか」
メリクに言われて、スプーンを持つ手を空けた。反対の手を繋いで「あーん」でご飯を食べる。たくさん食べて、たくさんあげて、コテツやにゃーとお昼寝をした。
ルミエルも難しいお話をするんだって。だからお家の中へにゃーとコテツを招いて、僕の寝るお部屋で一緒に休む。お布団じゃなくて、床にいっぱい毛布とクッションを置いたの。
ごろんと寝たら目が閉じて、すぐに寝ちゃった。温かくて、ドキドキする音が気持ちよくて、僕はぐっすり寝たみたい。起きて欠伸をひとつ。
メリクはまだ難しいお話ししてるみたい。お水が飲みたくて、お部屋を出た。お話ししている後ろを通って、お水を取りに行こうとした。でも途中で捕まる。
「お水ならあるぞ。ジュースじゃなくていいか?」
「うん、おみず」
コップに入れたお水をもらい、膝の上で飲んだ。両手で持ったコップを、さらにメリクの手が掴んでる。前に僕が落としたから、手伝ってくれるの。飲み終えたところで、メリクからお話があった。
「ここから引っ越そうと思うんだが」
「ひっこし……」
何をするんだろう。
「お家を変えるんだ」
「新しいお家よ」
メリクとサフィが教えてくれた。新しいお家は、コテツやにゃーも一緒に住めるのかな。
「……彼らは来れないな」
「コテツは連れて行ってもいいのでは?」
シュハザが言うけど、じゃあ、にゃーは置いていくの? それはヤダ。
「まだ世界を離れても管理できるほどじゃねえし、諦めさせるのも可哀想だしな」
ゼルクの話は難しくて分からない。引っ越し? をしなければ、皆で一緒にいられるのに。どうしてここに住んでいたらダメなんだろう。変な人が来るから?
離れるのは嫌だな。泣きたい気分で、僕は指を口に入れた。