85.禁忌を犯した神の末路(フラウロスSIDE)
世界は不平等だ。どの世界も、作る神の力量差が現れる。そこには残酷なほど、鮮明な違いがあった。絶対神に数えられる実力者なら、最上級の世界を作り上げる。バランスよく調和した世界も、偏った己の欲を満たす世界も。
新人の神が作る世界は不安定で、どうしても揺らぐ。その隙間を見つけてこじ開ける方法は、得意技だった。だからシアラと呼ばれる新人が作った世界を、裏側からこっそり開いていく。表面に張られたルミエルの結界を掻い潜り、中に忍び込んだ。
アドラメリクが大切に守る珠玉の存在――待ち望んでようやく得た愛し子は、無邪気に若い神と戯れていた。それを奪い、見せつけて立ち去る。この時点で目的は半分ほど達していた。あのアドラメリクを出し抜いたことは、他の神々への牽制に役立つ。
絶対神は選ばれた存在であるべきだ。実力はもちろん、配下の数や世界の質も含めて。三柱の絶対神は、アドラメリク、リザベル、私だ。すでに二つから四つの世界を管理する上位の神は、アドラメリクについた。
リザベルは孤高を好み、いけ好かない神だがアドラメリクに処理される。そのために焚き付けたのだが……うまくいきすぎて、笑いが止まらなかった。満を辞して乗り出す私は、確実にアドラメリクを堕とす必要がある。
崇められる絶対神は、私一人でいい。このフラウロスのみ。それこそが正しい在り方だろう。愛し子を攫い、アドラメリクを封印する鍵として使う計画は、途中まで順調だった。だが、集めた精霊が反発する。
三角の建造物に詰め込んだ精霊の力と、四柱の犠牲を持って封印を成す。ちょうど目障りな実力者が勢揃いしたのだ。押し込んでしまえ。そう思い、愛し子の命を盾に脅した。
だが……圧倒的すぎた。私の知るアドラメリクの力は、実力の数割に過ぎない。知りたくなかった実力差に押し切られ、拘束された。取り巻きの神々が我が身を傷つけ、流れる血と共に力が溢れていく。
焦っても足掻いても逃げられぬ状況で、私は悟った。彼らは別格なのだ、と。今さらながら理解した。違い過ぎる格差は、突きつけられるまで分からない。叩きつけられ、ようやく身に染みた。
背に突き刺さるゼルクの槍、利き腕を落としたシュハザの刃、ルミエルの鋭い剣が足を縫い付ける。彼らの墓場にする予定で、丁寧に構築した世界に私が呑み込まれ始めた。
止めに放たれたアドラメリクの怒りが、雷となって魂を引き裂く。回復の見込みがない眠りに落ちた私は、三角錐の封印具へ吸い込まれた。彷徨う魂の脇を、必死で逃げ惑う精霊が抜けていく。
留めおく私の力が散ったことで、逃げ場を得たようだ。羨ましいと思う感情すら分解される。何も残らず……チリとなって。この身に余る欲を抱いた罰か? それとも最初から私には何もなかったのか。
――愛し子は不可侵である。決して他者の愛し子に手を出すな、滅びの兆候となるであろう。
過去に散った師の言葉は、現実のものとなった。禁忌を犯した神の末路。閉ざされた封印具の中、私が残せたのは一粒の涙だけだった。