84.痛いなら僕が我慢するよ
痛かったし怖かったけど、すぐにメリクが来てくれた。連れてかれたのが嫌で泣いたら、顔に砂がついた。それも綺麗になったよ。でも……。
「メリク、にゃー! にゃーが」
蹴られたの。お腹を蹴られて痛そうだった。あんなに優しいにゃーを蹴るなんて、あの人は悪い人だ。泣きながら訴える僕に、メリクはうんうんと頷いた。
「安心していい。にゃーは治った。もう痛くないぞ」
メリクが治してくれたのかな。安心してお礼を言った。僕の体の痛いところも消えて、光る精霊がいっぱい集まってくる。でも僕が知っている精霊は、もっとピカピカしていた。
「メリク、これ……いたいの?」
精霊は三角の大きな石みたいなのから来る。ふらふらしながら、僕に触って集まった。もしかして怖いの? あとは痛くて我慢できないとか? 心配になった。いつも精霊は僕の痛いのを消してくれたのに。痛いなら今度は僕が我慢するよ。
「優しいな、イルはそんなことしなくていい。俺達が何とかするから」
メリクはそう約束した。だから安心して目を閉じる。少しだけ眠いの。
「ダメだ! 我慢してくれ、ここでは眠ってはいけないんだ」
揺らされて目を開ける。でも眠いよ? 見たらルミエルも欠伸した。慌てて手で押さえたあと、隣のサフィを揺らしてる。サフィも眠そう。
「引き上げろ、急げ!」
メリクの号令で、皆が集まる。僕を抱っこしたメリクが足元に光の輪を作って、中に入った皆が手を繋いだ。不思議な姿だけど、光った後でお家の前にいる。
「おうちだ!」
にゃー、足元で声がして覗くと、三毛猫のにゃーがいた。いつもより小さい。メリクがいなかった頃の大きさだった。
「危なかったぁ」
「思ったより強力だったわ」
「危険なので、あの世界は外から閉じておきましょう」
ゼルクとサフィがどすんと座る。シュハザは額を拭きながら溜め息を吐いた。何も言わないルミエルは、唇を尖らせる。
「私の防御陣が効かないなんて、最悪よ」
難しいから分からないけど、僕は皆にぺこりと頭を下げた。
「ありがとう」
僕を助けにきてくれた。それは間違いないから、お礼を言う。嬉しかったり、楽しかったらお礼を言っていいんだ。皆が
「こちらこそ」だったり、「よかったな」だったり。僕の頭を撫でていろんな言葉をかけた。
ずっと黙っていたメリクが、お家の前の椅子に座る。長い椅子でベンチだ。すると、お膝に乗った僕の隣に、にゃーが飛び乗った。
「にゃー」
蹴られたお腹を撫でてあげる。痛いの、消えちゃえ! いっぱいお願いしておいた。にゃーは気持ちよさそうに寝転び、僕は……あれ? もう眠くない。
「メリク、ねむくない」
「ああ、あの場所が異常だったんだ。ここなら寝てもいいが、せっかくだから皆で食事でもするか」
「賛成!」
「私も何か作りましょう」
ルミエルが大喜びして、お料理を作るとシュハザが中へ入る。皆で赤い玄関を潜って、にゃーも入ってから扉を閉めた。
ご飯食べたら、皆で何をしよう。もう怖い人来ないよね? 僕はお家の中にいた精霊に気づいて、首を傾げた。さっきの光が少ない精霊は、大丈夫だったのかな。痛くないといいけど。