表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/105

83.変革の予兆なのか(ゼルクSIDE)

 捕えられた愛し子をボスが取り返した! このタイミングを逃さず、シュハザと目配せし合う。


 長い槍を背中に突き立てて動きを封じ、ほぼ同時に切り掛かったシュハザの剣が利き腕を落とした。ボスの力で縛り上げられた獲物は、抵抗できずに苦痛の呻きを漏らした。この程度では我慢できない。ズタズタに引き裂いてやる。凶暴な衝動が沸き起こった。


 想像するのも恐ろしいが、自分に愛し子が現れ同じ目に遭ったら? 相手が強大なボスでも、俺は命懸けで戦う。尊敬する人にも刃を向ける覚悟があった。神にとって、愛し子とはそういう存在だ。癒してくれるからではなく、己以上に大切な人だった。


 彼の配下であった神々が数人様子を見ているが、助ける素振りがない。俺達を攻撃するために、愛し子を危険に晒した行為に眉を顰めたのだろう。


「ゼルク、私にもやらせて」


 普段は防御役に徹するルミエルが、目を爛々と光らせて口角を上げる。幼女姿なだけに、猟奇的に映った。両手に細身の剣を二本握り、駆け寄る勢いを利用して足を縫い止める。最後の止めはボスだな。


 譲るつもりで振り返った先で、イルちゃんの目元や口元を洗い流すボスが「無事でよかった」と安堵の息を吐く。


 もし僅かでも傷を負っていたら……想像するだけで恐ろしい事態に陥ったはずだ。周囲への配慮もなく、最強を誇るボスと狡猾なフラウロス神の、全面対決が起きた。数十人の神々とその管理する世界が吹き飛んでも、収まらないほどの争いになる。


「やれやれだ」


「しかし、ルミエルの結界を突破したのは……」


 シュハザは不審そうに呟いた。シアラの世界は、メリク神と愛し子が滞在する。重要な拠点として、ルミエルが定期的に結界を張っていた。防御陣もあったはずだが、作動した形跡がない。ルミエルの実力を信頼するから、ボスも愛し子の自由を許していた。


「確かにおかしいな」


「それもですが……気付きませんでしたか? 私達も意識を向けていたのに、愛し子様が攫われたことに反応できなかった。メリク様の召集で、初めて動いたのです」


 シュハザの指摘を、俺もようやく理解した。神という存在は、世界を作って管理する。ゆえに守備範囲が広く、その力は遍く降り注ぐ。己の世界だけでなく、気にかける存在にも。世界が違ったからと、ボスがいるシアラの世界も気にかけていた。


 だが、駆けつけたのは呼ばれてからだ。その違和感は得体の知れない恐怖となって、じわじわと広がった。


「変革……?」


 まさか! そんな意味を込めた呟きに、シュハザは唇を噛む。


「ええ、否定できません」


 絶対神三柱のうち、無事なのはボスだけ。その愛し子が現れてから、急激に変化が起こりすぎた。そもそも生まれる予定だった母胎が亡くなったこと自体、異例のことだ。五つも管理する世界があるのに、外へ生まれたことも含めて。


 ぞくりと背筋を恐怖が走った。変革が訪れるなら――どうか、あの二人を引き裂かないでくれ。長い時間をかけて、やっと出会えたばかりなんだ。安心してボスに頬を擦り寄せる愛し子を、愛おしさを滲ませて抱きしめる姿を見ながら、心の底から願った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >どうか、あの二人を引き裂かないでくれ。 イルとメリクのほのぼのワールドを楽しみたいので、ゼルクさんとは気が合いますな♪
[一言] ふ、不安しかないです〜(泣)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ