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79.約束がいっぱいの日

 今日は誰も来ない日なの。メリクとお名前の練習をした。僕の「イル」の時と同じで、石板に黒で「メリク」と書いてもらう。まずここだけ覚えることにした。


 僕はまだ小さいから、ゆっくり覚えていい。メリクはそう言った。だからメリクの三つだけ文字を覚える。


 僕の名前と同じで繰り返してなぞると、上手になった。隣の何もない白い石板に書いたら、メリクと書けた。嬉しくて僕の名前のイルも書いたら、昨日と形が違う。


「うーん、ここが違うかな」


 練習で使ったシュハザの書いた石板を眺め、棒の位置が違うと気づいた。横向きの棒が高い位置じゃなくて、低い位置だよ。直したら戻った!


「できた!」


「イルは偉いな。忘れないように、起きたら練習しようか」


「うん」


 起きたら文字を書く練習をする。メリクと約束して、お昼までいっぱい文字を書いた。お名前を書いた石板は乾くと消えちゃう。だからメリクが紙を用意した。シュハザが持ってきた黄色っぽい紙だ。そこに文字を書く。


 黒いインクをつけたペンで、メリクのお名前を書いた。上手にできたと思う。その下へ、今度は僕のお名前を並べる。お手本を何度も見ながら、同じ形にした。


「すごいな、イルは! 俺はすごく嬉しいぞ」


「ほんと?!


「もちろんだ、嘘は言わない」


 にこにこしながら、インクを片付けるメリク。僕が書いた紙は、壁に飾るんだって。もっと文字を覚えて、長いお名前も書けるようになったら、それも飾ってくれると約束した。今日は約束がいっぱい。


「ご飯を食べたら、外でにゃーと遊んでいいぞ」


「メリクは?」


「もちろん一緒だ。コテツも呼んでみようか?」


 コテツは森の王様だって聞いた。絵本では王様は忙しかったから、コテツの邪魔にならないかな。


「優しいな。イルが会いたがってるから、時間があったら来てくれと伝えよう。忙しかったら別の日に来るさ」


「うん」


 それならいいかな。今日はパラパラのご飯で、スープに入ってた。それをスプーンで食べるんだけど、難しいの。メリクの服にいっぱい垂れちゃった。でも怒ってなくて、楽しそう。


 僕は上手に食べさせてもらったから、汚れなかった。そのままお外へでたら、にゃーの隣でコテツも待っていた。


「コテツ! にゃー!」


 先に走るにゃーを追いかける僕を、ひょいっとコテツが背中に乗せる。ぐんぐん近づいて、にゃーが追い抜かれた。ここで交代だよ。今度はコテツが逃げて、にゃーが追ってくる。僕はコテツの背中でずっと笑ってた。


 家が見える場所で、振り返ると玄関の前にメリクがいる。椅子に座って、僕と目が合うと手を振った。僕もいっぱい振る。


 走り回って疲れて、冷たいお茶を飲んだ。にゃーとコテツはお水、おやつは同じパンを齧ったんだ。メリクは僕を膝に乗せて、いっぱい褒めてくれた。一人でコテツに乗れたことも、落ちなかったことも。それからおやつのパンをひとつ食べられたことも。


 夕方にコテツは帰って、にゃーと一緒に床に座った。毛皮に包まれて眠ってしまったみたいで、目が覚めたら朝だったよ。お風呂入ってないし、夜のご飯もしてない。慌てて起きた僕に、メリクが笑った。


「約束通り、ご飯の後で文字の練習をしような」


「うん」


 今日はルミエルが来る。その前に約束の練習をしなくちゃ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 服が汚れて笑えるなんて…私なら目が吊り上がってる(笑) メリクの溺愛だな!!
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