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66.不要な物は処分する(絶対神SIDE)

 あの世界を作ったとき、初めての世界管理に浮かれていた。自分に似せて人を作り、周囲の世界を真似て自然環境や動物を整える。とても楽しくて、さまざまな物を配置した。


 箱庭を作る際、注意すべき点がある。それは何を足すかではなく、何を引くかで考えること。先に世界を作った神の忠告は、俺の耳をすり抜けた。足りないより満ちている方がいい。


 人は新しい文明を築き、神の手を離れて発展を遂げる。ちょうどその頃、新しい世界を増やした。そちらに夢中になっている間に、人は余計な知恵をつける。神の恩恵を排除し、勝手に独自の世界観を生み出したのだ。


 気づいた時は手遅れだった。世界の隅々に人の手が入り込み、絡まった呪詛は解けない。動物達の怨嗟の声、植物の苦しみ、踏み躙られる世界の尊厳……このまま滅ぼしてしまうのが正しい。こんな身勝手な世界を救うために、俺のイルが苦しむのは間違っていた。


「イル、いい子だ」


 眠った幼子の黒髪を撫でながら、優しく声をかける。聞こえているのか、頬が緩んだ。笑った彼女の額と瞼の上にキスをする。


 二つ目の世界が水、三つ目は植物、四つ目で風と動物達。最初の世界から救い上げた生き物を住まわせた。これ以上余計な存在は不要だ。さらに重ねて、自分のために夜の世界を組み上げる。


 すべて自慢できる出来だった。だからこそ、まだ滅びない最初の世界が腹立たしい。イルに気づかれる前に、壊してしまえばよかった。


 イルが懐いたシアラの世界を見た時、その愚かさに眉を寄せた。彼も最初の世界に人を入れて組み立てている。最初だから欲張りになるのはわかるが、俺と同じ失敗を繰り返すのだろう。


 人が築いた文明が、やがて他の種族を苦しめ始める。それまで数万年程度か。今なら人を排除出来るはずだ。実際、二つの世界を管理するルミエルは、一つ目の世界から人を極端に減らした。魔王という存在を作りあげて投下し、神自らが干渉したのだ。


 圧倒的強者に特権を与え、駆除を担当させる。それも一つの手段だった。いっそ、そうして更地に戻すのも、ありかもしれないな。眠るイルを結界で包み、そっと抱き上げた。


 このまま置いても誰も危害を加えられないが、離れることを苦痛に感じる。俺の我が侭だが連れて行こう。薄汚れた一つ目の世界に飛び、神として干渉する。別の絶対神は世界を水に沈め、清らかな数組を生き残らせた。ノアの方舟事件と呼ばれている。


 ノア神と同じ手法は面白くないな。どうせなら、他の神々の記憶に残る方法がいい。無駄に苦しめず、一息に葬ってやろう。水を消すか、火を流すか。迷ったのは一瞬だった。


「炎よ、この世界を燃やし尽くし浄化せよ」


 リセットする気があれば、愛し子がいなくても浄化は可能だ。その痛みはすべて管理者である神に返ってくる。それを癒す愛し子がいなければ、俺もこんな手段は選ばなかった。対となる神を浄化するだけなら、イルに負担はかからない。


 原始の言葉と呼ばれる発音は、その響き自体が力を持つ。イルを守るように飛びかう精霊が、歓喜の踊りを始めた。山は噴火し、その火の粉を浴びて精霊が舞う。大地が裂け、余計な異物を飲み込んだ。


 海は蒸発して分厚い雲を形成し、火の川は海となって地表を清める。ずきんと左腕が痛んだ。続いて肌の表面を焼くように、激痛が体を覆っていく。それを深呼吸して耐えた。


 腕の中で眠るイルは穏やかな寝顔のまま。釣られるように笑みを浮かべた。


「イルのお陰で決意できた。ありがとうな」


 この世界はイルが望む物を詰め込もう。美しい黒い獣を集めてはどうか。甘い果実がなる木も必要だ。燃える世界を一瞥し、俺は背を向けた。イルの理想の世界を作る土壌だ。徹底的に清めてしまおう。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだか脳が震えます。(笑) いるだけに優しい世界。最高かも。
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