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60/105

60.悲しいが溢れて胸がいっぱい

 買い物を終えて街を出るところで、着いてきた男の人が話しかけてくる。


「なあ、その子……俺の娘かもしれないんだが」


「はぁ? あり得ない」


 眉を寄せたメリクが否定するけど、男の人はしつこかった。伸ばした手でルミエルに触れる。すぐにゼルクが抱っこで取り戻した。


「ルミエルのおとうさん?」


「絶対にないわ」


 ルミエルは違うと言った。すると抱き上げたゼルクが、頬を擦り寄せる。


「俺の妹だぞ」


「っ、そ、そうよ」


 妹……同じお父さんとお母さんから生まれたの? そういえば、ルミエルの髪色はお日様色だし、ゼルクも色が弱いけどお日様色だった。どちらかといえばお月様の色が近い。でも僕とメリクが黒髪なのと同じで、色が近かった。


「だが」


「絶対に違う」


 自信を持ってゼルクに言い切られ、男の人は諦めたみたい。そっか、僕達を見ていたんじゃなくて、ルミエルだけ見てたんだね。がっかりした様子で離れていく男の人は、すごく寂しそうだった。


「あの人の娘は亡くなっているんだ」


 メリクがそう呟いた。亡くなったのは、死んじゃうこと。動かなくなって、冷たくなるんだ。小さい動物が動かなくなったの、見たことある。悲しくなって鼻を啜った。


「イルちゃんは優しいのね」


 ルミエルの言葉で、ぽろりと涙が落ちた。変なの、僕はどうして泣いてるの? 目から落ちる水は涙だと覚えたけど、出てきた理由が分からない。優しく拭いてくれるメリクにぎゅっと抱きついて、ぐずぐずしながらお家へ帰った。


 街を出て崖の下に来ると、ゼルクは帰ってしまう。お家が街にあるのかな。ルミエルはお家まで一緒に行くと言った。迎えに来てくれたコテツが、僕の顔を舐める。


 帰ってルミエルと別れて、ご飯を食べても、悲しいのは消えなかった。お風呂できちんと顔を洗って、メリクの抱っこでベッドに入る。僕の目の上に手を当てて、メリクがおまじないをした。


「悲しいのは俺と半分こだ。だからもう涙は止まる」


「……うん」


 本当に涙は出なくなった。悲しいのも小さくなった気がする。メリクはいろいろ知っていてすごい。


「ルミエルもコテツも心配している。もちろん、にゃーや俺も同じだ。泣かないで笑ってくれ」


「う、ん……」


 返事をしながら眠くて、起きて聞こうと思うのに目が閉じちゃう。そんな僕にメリクはいつもの歌を聴かせてくれた。優しくて気持ちよくて温かい。


「優しすぎるのも考えものだな。でもイルらしい。おやすみ、良い夢だけ見てくれ」


 頷いたのか、そのまま寝たのか。僕はふわふわした夢の中で、明るいお日様に手を伸ばしていた。届かないけど、届きそうで。何度も背伸びして手を伸ばす。あと少し……そこで僕を持ち上げる腕が現れた。メリクだよ。手の感じで分かる。


 ありがとうを言おうと振り返ったら、届きそうだったお日様が消えた。抱きついたメリクが、新しいお日様をくれる。僕が欲しいものは、いつだってメリクが持ってる。ありがとう、 大好きだよ。

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